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第28話 哀しみ

  ふわふわとした世界が続いていた。父さんも母さんもソコにはいなくって、色と星玻だけがその場に立っていた。 僕の頭はぐるぐると廻っていて、色が僕になにかをいっているようだったけど、聞き取れなかった。だが、星玻の「お前なんかいらない。早く死んでしまえ」という言葉だけがはっきりと僕の脳まで届いて悲しかった。 僕は耳を塞いで、星玻から逃げるように走った。すると、薄い霧が立ち込めてきて、色と星玻を呑み込んだが、僕はその霧に呑み込まれず、逆に放りだされてしまった。 なにが起こったのか解らず、暫くその場で呆けていたら、大学の友人が僕の姿をみて、笑っていた。よくみると僕は道化師の格好をしていて、彼らを笑わしているようだった。ソコに、星玻が現れてこういうのだ。 「なんで、月坡はボクと同じ顔で同じ姿をしているの?物凄く不愉快なんだけど?」 と。 星玻の言葉を聞いて、僕は心が冷たくなって、身体まで冷たくなった。なんで、そんなことをいうの?と顔を上げれば、般若のような星玻の顔がソコにはあった。 「聞こえてなかったの?どうして、あの儘死んでくれなかったのかな?月坡が生きてたらさ、ボク、物凄く迷惑なんだけど?」 腹の底からだしているその低い声はいままで聞いてきた星玻の声の中でいちばん恐かった。どこまでも冷たく、どこまでも酷な声だった。 「……星玻……?」 「触らないで!気持ち悪い!」 虫けらをみる目で僕をみて、触れようとする手を弾かれた。パーンと乾いた音がして、手の甲がじんじんとしている。痛覚がもろにあって、コレが夢なのか現実なのか解らなくなっていた。 夢なら覚めてという心の悲鳴が上がったときには星玻の顔は歪んでいて、「どうして、あのとき死んでくれなかったの?」そういった星玻の言葉が切実に僕の胸に刺さった。 ソレほど、僕のことが嫌い?ソレほど、僕のことが憎い? 僕ら双子なのに、どうして? そう思った瞬間、僕は兄弟として星玻のことが好きだったと気づかされるのだ。 僕は叫んだ。心の儘。心が思う儘に。 「違う!!僕は───!!」 僕の頭は間違っていなかった。星玻は僕の兄弟だから、星玻は僕の家族だから、大好きなんだ。 恋愛の好きじゃない。愛しいの好きじゃない。 タダ、血の繋がった兄弟だから、かけがいのない家族だから、愛して、好きでたまらなかったのだ。  

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