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第30話 転機
「…………坡くん、月坡くん、解るかい?」
白衣を纏った医師の言葉に小さく頷く僕は、ふたつき振りに意識を回復させたらしい。
その間、危ういことが数度あったらしいが、僕はなにも覚えてなかった。僕が目覚めたときには物凄い数の機械がつけられていたが、数日後にはそのほとんどの機械が外されてスッキリしていた。
面会謝絶という札も外されて、父さんや母さん、そして、色と会えるようになった。星玻は結局、一度も顔をみせにこなかった。僕は相当星玻に嫌われてしまったんだと思った。
僕の身体を拭いてくれる色は物凄く顔色が悪く、このふたつき、あまり寝てないんだと思うと申し分ない気持ちになった。
「色、ゴメンね、いっぱい心配かけちゃって…」
そんな色の頭を撫でて、もう心配ないからねというと色は何度も頷いて僕の身体を拭いていた。僕の身体には無数の手術痕が残っていて、あの手術の後も何度か手術を行ったようだった。
そして、星玻の話もその話も母さんも父さんもしたがらないから、僕も訊くに聞けず、その儘解らず終いで退院をすることになった。
暫くは自宅養生で大学の復帰は秋ごろになるだろうと医師に言われてしまい、また、あまり無理をせずにと言われてしまって、僕はひとつき以上家でごろごろとすることになってしまった。
色は夏期休暇で僕と一緒に家でいたが、星玻は僕らの家をでたらしく会っていない。
父さんはちょくちょく僕の顔をみにきていたが、星玻の話はまったくしてくれなかった。
母さんも色も僕によくしてくれるが、どうして、ソコまで僕に尽くしてくれるのか解らなかった。
もやもやとした気持ち悪いモノがあって、どうも素直に受け入れることができなかった。
そんなある日、定期検診があって色と一緒に病院にいった。色が付き添いというのはなんだか新鮮で僕の頬は緩みっぱなしだった。
「ま、色くん、付き添い♪」
馴染みの看護師もそう思ったのか、物凄くにこにこしていた。
診察のときも、医師に血糖や血圧、急激な変化に細心の注意を払うように何度も言われ、腹部の圧迫に気をつけるようにともいわれた。医師の説明を聞く色は真剣そのモノで、メモまでとっていた。
そういえば色の定期検診もそろそろだと思って、この際だから受診していけばと色にいうと、色は僕がつかれているからいいといいだす。だから、僕としてはムッとなって、色の腕を引っ張って、心療内科の窓口までつれていってしまった。
「色、ほら、保険証と受診証だして」
僕が色に手を差しだすと色は首を振ってソレを拒むから、看護師が苦笑いをする。
「いつもならとても嬉しそうにだすのに、今日はどうしたの?」
看護師もそういって色をみるが、色は頑としてだそうとしない。痺れを切らせた僕は、色が持ってる鞄を奪って色の財布をだす。広げたら定期入れの小窓に僕と一緒に写ってる写真が入っていた。別にコレくらい恥ずかしがることないのにと色をみれば、色はソレ以上にそわそわしだす。
僕は怒ってないよといって受診証を先ず取りだして渡し、続いて保険証も取りだして渡した。
そのとき、あることに気がつき、僕の手が一瞬止まった。ソレは、驚いて二度見するくらいで、看護師がどうしたの?と首を傾げた。
「あ、いや、ココのところ、なんで僕の名前?」
筆頭者が母さんでも父さんでもないから僕が不思議がっていると看護師が、「月坡くんの養子だからでしょう?」と応えた。
ハア?と間抜けな顔をして、どういうこと?と色ではなく看護師に喰らいつくと、看護師が一瞬吃驚した顔をしたが、私に聞かれてもそうだとしかいえないわと返されてしまった。
色に聞いても「おれ、つきはすき」としか言わないから、さっぱり解らない。取り敢えず、色の診察を終わらせてから母さんに聞こうと思ったが、久し振りにあった医師にこういわれて目が点になった。
「ああ、月坡くん、色くんとの披露宴はいつなんだい?大学を卒業してからかい?」
「ひろうえん?」
キョトンとした顔で僕が医師の顔をみたら、医師は困った顔で「えっ?色くんとそういう関係じゃなかったの?」と返される。
「そういう関係って?どういう関係ですか?」
「………ええっと、博信さんがそういっていたからてっきりそうだと………」
「父さんが?」
僕は色をみると色は恥ずかしがって、もじもじしながらもこういうのだ。
「…つきは、かぞくだって…、…すき…、つきは…」
最後の「すき、つきは」はよく解ったが、前文のかぞくという意味が解らない。
「えっ?僕たち兄弟じゃないの?」
「…………う"、…………そう……」
色は僕が怒っているのかと思ったらしく、医師の後ろに隠れるが色の方が大きいから、まったく隠れた意味がない。医師は困った顔で、さらに困ってしまったという渋い顔をしていた。僕は「色、怒ってないよ。吃驚しただけだから」といって、取り敢えず手招きをして医師から色を引き剥がした。
「あー、ゴメンね。なんか口走ったみたいで」
医師もそう僕と色にも謝って色の診察を始めたが色は僕の顔色ばかり窺っていた。色は悪くないと僕が頭を撫でると安心したのか、強張った表情だけは消えた。
十七年振りの真実があったことから、僕の頭も学習したようで、また僕の知らないところでいろいろとなにかが起こっているんだと嘆息した。
コレもまた、母さんと父さんの掛け違いが巻き起こしたモノだと僕は思っていた。
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