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第33話 踏ん切り

  その日、いちにちだけ入院して、翌日の朝、迎えにきた色と一緒に家に帰った。母さんは父さんと星玻の遺品を取りに現地に向かう準備をしていた。迎えにいけずゴメンねというけど、星玻のことを思うとそんなふうに気を使うことないのにと思った。 「僕も手伝うよ」 そういって母さんが詰め込もうとしているモノに触れようとした、そのときだった。母さんの手が震えていて小さく見えたのは。 「母さん、僕も、色もいるから……」 気休めの言葉にもならないことをいって母さんの手を掴んだ。 母さんは何度か頷いてボロボロと涙を溢したかと思うと、すっと立ち上がった。 「そうよね!母さんがしっかりしないと!」 そう母さんが叫んだ。 吃驚した僕が母さんの姿を見上げ、僕も立ち上がろうとしたら、家の電話が鳴る。 父さんかな?と母さんとふたりで見合わせて、僕は電話にでた。 「もしもし、只野ですけど?」 『───────────………………は?』 高音質の耳鳴りがした後、僕の名前を告げる声に僕は受話器を落としそうになった。 母さんが誰からなの?と僕にいうけど、僕も信じがたいことで瞬きをするばかりだった。 『───ちょっと、聞こえてる?』 受話器の向こうの相手はなんの言葉も返さない僕に腹を立てているのか、何度も怒鳴っていた。母さんは、そんな僕に代わって電話口にでるが、流石母さんというくらい順応性が早かった。 「────な、星玻、アンタ、生きてたの!!」 近所迷惑になるくらい大きな声で叫ぶ母さんの声に色がビビるほどだった。 「──ハア?パスポートと財布を盗まれた?ってことは、今、ハワイにいるの?」 パスポートの再発行や盗難届けなどいろんなことがあって、漸く連絡が取れるようになったのは今日だと星玻はいう。大使館に連絡したら、自分は死んだことになってるしと星玻は文句をいっていた。盗まれたチケットとパスポートで星玻を装った盗人は飛行機事故に巻き込まれたなど、星玻は知らなかったらしい。警察で事情聴取などされて、いちじは犯人扱いだったらしい。 『そういうことだから、ハワイまで迎えにきてくれない?』 そう呑気にいう星玻は呆れる母さんだったが、星玻が生きていたことには嬉し泣きしていた。 父さんにも連絡をして、星玻の遺品ではなく、星玻の身柄を引き取りにいったのはいうまでもないだろう。 「…………色、僕、………星玻は殺しても死なないタイプだと思う……」 僕は色にそういって、星玻が生きていたことを喜んだが、ソレだけだった。どういうわけか、僕にも解らないが、星玻が生きていてよかったとしか頭も心も身体も思っていないのだ。  

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