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第38話 好きなんだ
「──ね!なんで、キスじゃないの!」
そう怒る星玻を僕の膝から退かそうとする色は、呆れた顔で星玻をみる。
「つきは、………つかれてる。……はなれて」
精一杯の大きな声で色はいうが、星玻に邪険に扱われた。流石は、只野家最強の我が儘ボーイ。
「煩い!兄さんには聞いてない!」
色の腕を振りほどいて僕にしがみつく星玻は、どうして!とごねる。そうごねられても、身体がしんどいから振り廻されるが儘だ。
久しぶりに色とふたりっきりだった僕は、テンションが上がっていたらしく帰宅するなり、ソファでぐったりしてしまったのだ。血圧も糖分もソレほど上がってはいないが、少しの変動でこうやってすぐに調子を崩してしまう。
無理は禁物と医師に口が酸っぱくなるまでいわれた意味を身をもって実感するが、星玻がコレではどうにもならない。ご褒美は僕からのキスだと思っていた星玻は、頭を撫で撫でしただけでは満足しなかったようである。
色が僕のことを心配して、再び星玻を僕から引き剥がそうとするが、星玻はこの調子だ。
「ボクに触れてイイのは月坡だけ!兄さんはボクに触らないで!」
色の手を弾いて、剣幕を捲し立てて吠えまくる星玻はさらに手がつけられない。
「解ったから、星玻。兎に角、僕、横になりたいから少し離れてくれない?」
お願い作戦で星玻が退くとは思わないが、色と星玻がとくみ合いの喧嘩をしたら、僕では止めることができない。そう思っての言葉だったのに……。
「……月坡、ボクのこと嫌い……?」
急に星玻が泣きそうな顔になり、ああ、ひとりで留守番をしてて寂しかったんだと僕は気づき、星玻の頭を撫でた。
「嫌いじゃないよ。ちょっと疲れたから横になりたいんだ。少し休んだら、構ってあげるし、キスもしてあげるから………ね?」
いまは僕のいうこと聞いてというと、星玻は僕から少し離れてソファに座った。我が儘ボーイも寂しさには敵わないようである。
「ん、星玻はイイ子だね」
と、もう一度星玻の頭を撫でて僕は横になった。色が毛布を持ってきて僕にかけると、色は僕の頭を優しく撫でてくれる。この色の手が好き。
「……きもちわるく………ない……?」
むりをさせてごめんと謝る色に、僕は「気にしないで、物凄く楽しかったから」と笑ってあげる。「また、色と一緒にでかけたいな」というと、色は少し顔を赤らめた。星玻は面白くない顔をしていたが、ソレは仕方がない。
「……少し、寝るね……」
そういうのが早いか眠るのが早かったか解らなかったが、僕は色に頭を撫でて貰いながら、深い眠りに入った。夢はみなかったと思う。僕の傍には大好きな色がいたから。
夕方頃に母さんが帰ってきたらしく、僕の廻りは少し騒がしかった。星玻がなにかをいっているようだったが、僕は聞き取れなかった。母さんが色になにかをいって僕の頭に触れたとき、僕は目蓋を薄く開けた。
「………月坡、病院いく?」
相当僕の顔色が悪いんだろう。母さんがそういうことをいうからには。
「………ん、大丈夫………、気分はいいんだ………」
疲れただけといえば、母さんはソレ以上なにもいわずに、暫く経っても顔色がよくならなかったら病院につれていくからねとだけ色にいって、僕から離れていった。晩ご飯の準備をしにいったのだろう。アレから、父さんも一緒に住むことになって母さんの仕事量は減ったけど、家の仕事量は増えた。
僕があまり動けなくなったから母さんの手間が増えたんだと思うと、なんだかとても申し訳ない気持ちになった。少し起き上がって、洗濯物くらいはたたんであげようと思ったら、星玻が飛びつくように僕に覆い被さってきて、「ご褒美のキスをしてくれるの?」というのだ。
「違うよ、少し洗濯物をたたもうと思って……」
僕が立ち上がりうとすると色が慌てて走ってきておれがやると、僕の身体を寝かす。ソレをみた星玻は僕にこういうのだ。
「じゃ、ボクはお風呂掃除してくる♪月坡のかわりにするんだから、ボクにもいっぱいご褒美ちょうだいよ♪」
と。ソレはもう現金なことを。
僕はソレでも星玻なりに僕に気を使ってくれているんだと思って、星玻、ありがとうという。星玻はちょっと照れた顔をして、いってくるねのキスを僕の頬っぺたに落とすと風呂場に走っていった。
「色にもご褒美をあげるからね」
そういうと色は慌てて、きょうはいっぱいいっしょにいてくれたからいいと言う。星玻に気を使ってるのかと思ったけど、色の顔をみるとそうでもないようだ。僕が星玻に振り廻されているのをみて、僕に気を使っているんだと気がつく。
「色、僕に気を使わないで」
我慢しないって約束したでしょうというと、色はハッとした顔で僕をみる。
「大丈夫。嫌ってないよ。僕はそういう優しい色が好き」
おいでと僕は色を手招きして色を引き寄せる。ぎゅっと色を抱きしめて、「色、大好き」と囁いた。
色にこうやって触れると元気になる。色にこうやって触れられると幸せになる。色にキスをされるだけで心が温かくなって、辛いこともせんぶなかったことになるまで吹っ飛ぶ。色が僕の名前をいうだけでその日いちにち、頑張れる気がする。
そう、色は僕の元気な源。命の輝きともいえる、そんな色が好き、大好きなんだ。
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