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第43話 告白

  ソレから、──半年……。 「色、早~く!」 僕は大好きな色に飛びつくようにして抱きつき、色の腕を引っ張った。 「つきは、さくらはにげないよ……」 星玻とのいい争いで鍛えられたのか、色の不安が和らいだのか解らないけど、色は徐々に言葉をちゃんと発せられるようになっていた。 「なにいってんの!桜は逃げないかもだけど、みどころは逃げちゃうよ!」 今日の午後が、今年の一番の満開時間だと聞いた僕はソコで色に告白しようと思っているから、もう必死だった。相手は男で僕よりも背が高くって、どうみても、そういうシチュエーションを好む感じがしないのだが、僕はどうしてもそのシチュエーションで色に好きだと伝えたかった。 昔からそういうことを好むのは、母さんがそういうことが好きだからだろう。だから、この十九年間母さんのそういう背中をみてきた僕も然りなのだ。 「色、一生のお願い!だから、走って!」 誰も知らない穴場につれていこうとする僕はぐいぐいと色の腕を引っ張った。だが。 「つきは、いま、つきはのいっしょうのおねがいきいたら、もうおねがいできなくなるよ?」 呑気にそういう色は大きな欠伸をして、僕の引っ張っていた手を僕ごと引き寄せる。 「だいじょうぶ、さくらもみどころもにげやしないから。だから、かんちしたからってはしるのはきんしね、つきは」 色はそういって僕を軽々しく持ち上げると、ゆっくりと歩きだした。横抱きにされた僕は、降ろしてと暴れるに暴れられない。 こんな姿をみられたら恥ずかしいこともあるが、せっかくの穴場が知られてしまう。 「……色、お願い………」 自分の中にある葛藤を色に押しつけても仕方がないのに、僕は急いで急いでと色の肩を叩いた。 叩いたからって、色の肩をぽんぽんする強さだから色はくすくすと笑う。 「なに、つきは?おれになにをみせたいの?」 「みせたいのもあるけど、いいた………」 いことがあるといいそうになって、僕は慌てて口を手で塞いだ。なんでもないよという顔で、色をみるが色はへえ~そう?と惚けた顔をする。勘のイイ色だから感ずいたかもしれない。 だが、僕はソレでもイイと思いながら色の首に腕を廻してしがみついた。色は終始ご機嫌な様子で僕が目指していた目的に向かう。 桜並木を横断して、河川敷に入る。コンクリートで覆われた河川がその桜並木の中央を突っ切っているのは、舟下りがいまも盛んだからだろう。 船頭がのだりくだりと舟を漕ぐ様はいまも昔も変わらない。河川からみあげる桜並木は絶景で、観光名所にもなっている。 夏になれば葦が生えてまた違うみどころになる。秋は紅葉が美しく舟下りの紅葉狩りと洒落込む。冬は冬で白銀の世界が広がる雪模様で、コレもまだ綺麗なのだ。 河川を横切る石畳の切り出し部分を器用に跨いで色は河川を渡った。大きなドラム缶よりももっと大きい筒上の穴に入り、その抜けた先にある場所は知るひとしか知らない穴場。樹齢千年を超えてそうな大きな樹木の桜は、ココ一番のみどころになる。ソレが、満開となればなおさらみどころだ。 「うわああぁ、つきは、まんかいだよ♪」 さわさわと風に揺れる枝が花弁を揺らすのか、数枚の花弁が散る。花弁が散るが、満開の桜の花は厚みがあってびくともしない。流石は、八重桜。 大きな花弁がヒラヒラと宙を舞って、次々と土手に落ちてゆく。そよぐ風がソレを舞いあげて、再び宙を泳がせていた。 「ん?どうしたの?」 「………え、………あ、うん…………、そうだね………」 あまりの美しさに声をあげる色だったが、僕はその景色に重なる色の横顔に見惚れていた。色ってこんなにも綺麗だったっけ?と思うほど、八重桜とともに映る色の姿は綺麗だったのだ。 横抱きにしていた僕を降ろす色は不思議そうな顔で僕をみつめる。僕が桜に目を奪われていないのが不思議で仕方がなかったのだろう。 僕はもう一度色をみてから、満開の桜に視線を移した。 「───色、あのね…………」 僕がそういって口を開こうとしたら、色はソレを自分の唇で塞ぐ。その先をいわないでと険しい顔をするのは、今年の秋に星玻がアメリカに留学をするからだろう。星玻が僕に、「一緒にアメリカに留学しない?」と誘っていることを色は知っている。そして、ソレを断ったことも色は知っていた。 だから、勘のイイ色は自ずとこういう選択肢を選ぶのだ。 「つきは、すき。だいすきだから、おれだけのものになって………」 と。 こくはくはおれからしたい。そういう考えは色にもあるのだ。 僕は色から唇を離して、色をみつめる。 「僕は………」 そう僕が言葉にしたとたん、色に再び口を口で塞がれる。合わさる唇が深くなって、僕は喘ぐような声をあげた。 「んんんっ、はっぁん…………やめ……」 「だめ、つきははうなずくだけでいいの。おれのといにちゃんとこたえて………」 男前過ぎる色の真剣な顔に、僕の思考は蕩けていて自然と頷いていた。 ああ、完敗だ。僕から告白して、色を僕だけのモノにしたかったのに。 色を待たせていたお詫びとかそういうワケじゃないんだけど、やっぱり男としては自分から告白して好きな子を手に入れたいモノだろう。 「………色、ズルい」 ソレだけはかろうじていえたが、ソレ以外は色の口の中に消えて、色がせんぶ呑み込んでしまった。  

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