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第54話 ホワイトデー【番外編】
バレンタインデーからひとつき、当然、日本ではバレンタインデーのお返しをするホワイトデーというモノがある。星玻に色へのチョコを奪われた僕もそのひとりとなってしまった。
とはいえ、婚約指輪を貰ったからには僕も色が僕のモノだという証を贈りたかったから、コレはある意味チャンスというモノ。そう、星玻に色へのチョコを奪われたことは、吉とでているようである。
「ねぇ、色、このいろとこのいろ、どっちがイイと思う?」
ペディキュアのいろを色に選ばせながら、僕は色の好みを探す。ああ、色に貰った婚約指輪を誰にもみせれないのは残念だというと、化粧品関係の仕事をしている父さんが僕にペディキュアをプレゼントしてくれたのだ。母さんは「あら、よかったわね、月坡」と笑っていたが、目がぜんぜん笑っていなかったことはいうまでもないだろう。
兎に角、素足が苦手な僕は春先でまだ肌寒い中、婚約指輪のために素足で頑張っていた。基本、靴下を履かない色にはこの辛さが解らないと思うが。
「こっちがいい」
右手に持っている方を指差す色は、物凄くセンスがイイ。的確に僕の肌のいろと婚約指輪のバランスを見極める。だから、あげたいモノはもう決まっているのだけど、色がソレを気に入ってくれるのかが問題だった。
色のこの美的センスは苺花さん譲りなのだ。苺花さんはデザイナーで、滅法美人だったと母さんと父さんがいっていたから。
「流石、色、僕の肌のいろにぴったりだ。こういうのってやっぱり天性っていうヤツなのかな?」
ペディキュアを爪に塗りながら、僕は色にそういうと色は首を傾げた。
「きにしたことなかったから、わかんない」
「そう?僕はてっきり苺花さんと同じようなデザイナー職につくんだと思ってた」
「どうだろう?おれはとうさんがやっていたことがしてみたい」
「営業職を?」
星玻なら天性だろうという職を色がしたいと思っていたとはまったく思ってなかった僕は、目を大きくする。
「うん、おれのかあさん、すぐなくなったから、おれ、とうさんのせなかしかみてきてないし」
歯切れが悪いのは、色の両親がもうこの世にいないという寂しさからだろう。事故で陽香さんを亡くして、苺花さんも病気で亡くしているのだ。色が言葉を喋れなくなったのも、そのせいで。色は、あまりそういう話をしたがらない。
「ゴメン、色。そういうつもりで……」
「わかってる。つきははわるくないよ。おれのこころがよわいのがわるいんだ」
だから、なかないで。そう色にいわれるまで、僕は自分が泣いていたことに気がついていなかった。ぎゅっと抱きしめられて、ちょっとペディキュアが溢れそうになったけど、僕は色にしがみついた。
「色、ありがとう。色は弱くないよ」
僕が色なら立ち直れなかったと思う。だから、色は弱くないし、悪くもない。僕はそういって、掌で涙を拭った。もっと強く在りたいと思うのは誰にだってあることだ。だけど、そう願うほど弱い自分が顕になって、僕は悔しくって泣いた。色はそんな僕を慰めるようにずっとぎゅっと抱きしめてくれた。しばらくそうしていて、僕ははたりと思いだす。
「あ、そうだ。色、明日、久しぶりに動物園にいかない?」
遊園地ではなく動物園なのは、初めて色とデートした場所が動物園だから。あまり僕を無理をさせたくないという色の優しさからだろう。
「うん、いいよ。つきははきりんさんがすきだもんね♪」
色は僕をからかうようにそういうけど、前髪にチュッとキスを落とす行為は甘いモノがある。だからだろうか、「ぞうさんも好きだよ。イケメンのゴリラさんはちょっと惚れちゃいそうだけど………」と冗談を冗談で返せるのは。
「それは、ちょっとやける……」
塗っていたペディキュアを取りあげられてきっちりと蓋をすると、色は僕に覆い被さってきた。簡単に組み敷かれて唇にキスをされる。当然、その先の行為もやって、僕が気がついたときは次の日になっていた。
「おはよう、つきは♪」
色の声とキスで目を覚ます僕は飛び起きる。途中塗りだったペディキュアを思いだして。いまから塗ってもすぐには乾かないと目をしばたたかせて塗りかけの爪先をみたら、綺麗に塗られてあって驚く。
「ごめん、かってにぬちゃった………」
色が申し訳なさそうにそういうけども、僕は嬉しくって色に抱きついた。ソレに、お風呂にも入れてくれたらしく、汗臭くない。
「ありがとう、色♪」
サンダルが履けると僕が喜ぶと色は嬉しそうに笑ってくれた。そうだと僕はベッドから飛び降りると色が瞬きをした。
「どうしたの?」
「うん、コレ」
小さな白い箱を机の引きだしから取りだして、僕は色に差しだす。
「バレンタインデーのお返し。ソレと、色と婚約してひとつきのお祝い」
色、受け取ってといえば、色はもうソレは嬉しそうにソレを受け取った。
「あけていい?」
「うん、イイよ。僕がつけてあげるから」
そういって、色が開けた箱の中にあったモノを僕は色の首につけてあげる。
「あ、やっぱり、色はこのいろが似合うね♪」
僕は胸を撫で下ろして笑うと、色がチュッと僕にキスをする。すると、ダダダダダッとどこからともなく、廊下を駆けてくる音がして、いきなり自室の扉が開いた。
「月坡、おはよう♪コレね、ボクからのホワイトデーのお返し♪」
そういって、僕に抱きついてきたのは星玻だ。白い箱を僕に差しだして、勝手に開けると勝手に僕の首につける。
「ああ、やっぱり、月坡はこの色が似合うね♪ふふっ、ボクって天才♪」
上機嫌で僕につけたチョーカーにチュッとキスを落として、僕の唇にもキスを落とす。相変わらず強引だなと思ったが、今日はその強引な星玻に感謝をしたかった。
「ありがとう、星玻、大事にするね♪」
星玻は僕からそういう言葉が先にでるとは思わなかったらしく、目をしばたかせる。だが、物凄く嬉しかったのかすぐにニコニコと笑ってどういたしましてというのだ。
「ようやくボクのモノって自覚でてきた?素直な月坡は物凄く大好きだよ。愛してる、月坡」
星玻はそういうと今度は深く蕩けそうなキスを僕にしてきた。キスの合間にチラリと色をみるのは、勝ったと勝ち誇ったからだろう。だが、次の瞬間星玻は目を開いて叫んだ。
「な、な、なんで、兄さんが月坡と同じモノしてんだよ!!」
色の首についたチョーカーをみて、そう思うのも仕方がない。僕らはいち卵性の双子なのだ。ときにはこうやって、いや、たまにはこうやってどんかぶりすることだってあるのだ。ソレが、たまたま今日であって、こういうタイミングだっただけだ。
「ああああああああああっ!!!!兄さん、またボクをハメたね!!!!許さない!!!!」
星玻はそう叫びが、色がそんなことするハズがないから、僕は星玻を叱る。
「星玻、そういういい方はよくないよ。たまたま僕と好みが重なっただけでしょう?」
なに?じゃ、コレはもうつけなくってイイの?と星玻に詰め寄ると、星玻はソレはヤダと泣き出す。色に向かって、「兄さんがソレ、外して!!!」とまた無理難題なことを叫びだす。
「ソレは無理だよ。アレは僕が色に贈ったモノなんだから、毎日つけてくれないと」
さらりと僕が星玻の提案を拒否したら、月坡の「ヴぁか!!」と部屋からでていってしまった。やれやれと僕が色をみたら、色はぺあーるっくだと物凄く勝ち誇った顔で笑っていた。
【ホワイトデー】─完─
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