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第55話 アレから【色羽side】番外編

  大学も二年になると必須科目もグッと減って、自由選択が増えてきた。だから、時間割りも朝いちからということもなくなって、リビングで月坡と寛いでいたら甲高い声の怒鳴り声が聞こえてきた。 また星玻のヤツかと呆れた顔で腕の中にいる月坡をみると、月坡も同じ顔をしていた。物凄い勢いでリビングに入ってきた星玻は当然のように月坡に向かってダイブして、月坡を困らせている。月坡、愛してると俺がみているというのに、月坡にキスをするのだ。月坡も月坡で、物凄く困った顔をしているのに、星玻のキスを受け入れている。 ソレもそうだろう。もう長いこと星玻のことを好きで、片想い中だったのだから。俺とつき合うことになったのも、本心からではなかったと思う。月坡は優しすぎるから、俺のことをほって置けなかったんだと思うのだ。 だから、いまもそうだ。星玻とのキスに物凄く感じていま直ぐにでも星玻の首に腕を廻したいハズなのに、月坡はソレを我慢している。ちらっと俺の方をみては、俺が機嫌を損ねていないか確かめているからだ。 そして、あともう少し、もう少しだけでイイからと俺に訴えてくる潤んだ瞳に、俺は嫉妬することしかできなかった。月坡を縛っておくことができない俺は、タダ、月坡が俺のところに帰ってくるのを待つしかできないからだ。 ソレを物語っているように潤んだ月坡の唇は、星玻の舌を離そうとしていなかった。んっと甘い吐息が漏れるのも勿体ないと、月坡は星玻に貪りつく。ソレは、魂の底から星玻を求めているようで、俺の心を空しくさせた。しかも、深く息をつくたびに月坡の手に力が入っていた。 早く星玻から離れて、俺とキスをして。そういうモヤモヤとしたもう気持ちが抑えられなくって、俺は月坡の裾を引っ張りたいという衝動にかられた。 すると、月坡はさっと星玻から身を引いて、星玻の舌を解放する。もうダメだよと、星玻を宥めるように星玻から離れて今度は俺に凭れかかってきた。機嫌を直してというその行為は、物凄く俺の心を凍らせるとも知らないで。 月坡はあとからいっぱいキスをしてあげるからという顔で俺をみてから、星玻の頭を撫でる。ああ、やっぱり星玻のことが忘れないんだと落胆して、俺はそういう優しさは要らないんだよと月坡をみた。俺だけをみて、そういいたくなるのに俺の口からでる言葉は忠犬ハチ公並みの忠実振りな言葉だ。 うん、わかったと嘘ぶる俺。理解もなにもしていないのに、そういうのは月坡を星玻に取られたくないいっ心からだ。俺が我が儘をいわなかったら、俺がもっと強くなったら、俺がもっと純粋だったら、そういうことばかりが前にでて、いっ方通行だったときのようなあの大胆さがでてこない。そう、いまの俺には嫌われても傍にいられたらイイという開き直りができなかったのだ。 「ゴメン、もう色が怒るから」という月坡の眼差しは星玻にも解ったらしく、星玻は俺をみた。 「もう!!兄さんズルい!!」 口を尖らせて俺を睨んでくる星玻は相変わらず、俺には牙を剥く。牙を剥くが、俺が星玻の弱味を握っているから噛みついたりはしてこない。だが、どっちつかずの月坡はおろおろとするんだろうなと思いながら、俺は冷たい心の儘月坡の身体をぎゅっと抱きしめた。が。 「ズルくないよ!!僕たちつき合ってんだから当然でしょう!」 声を荒げてそういったのは、月坡だった。こんなふうに強気なことをあまりいわないから、星玻は黙り込んでしまった。星玻も月坡にコレ以上嫌われたくないと思っているからだろう。お互い紙一重の立場に立たされていると思えば、そうなるのはごく普通のことだった。 俺も驚いた顔をしていたら、月坡は当然のように俺の頭を撫でてきた。ソレから、物凄く思い詰めた顔をして、「色、気にしちゃダメだよ。ちゃんと、僕の目をみて!」という。俺の心が沈んでいるのを解っているように、「やっぱり、僕から告白すればよかった」と下唇を悔しそうに噛んでいた。 そうなれば、星玻も黙ってはいない。傾きかけた心を自分の方に傾けることに躍起になる。 「月坡、そんなことボクの前でいってイイの?あ~あそっか、月坡はボクのことが好きだから、ボクにヤキモチを焼いて欲しいんだ♪──だけどさ、ボクね、そういうの要らないから………」 冷たい口調でそういうが、月坡に向ける眼差しは穏やかで優しいモノがあった。こういうときの星玻はなにを考えているのか、解らない。月坡を殺す気で暴行をくわえたあのときの空気に、少しだけ似ているような気がした。  

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