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第56話 アレから2【色羽side】番外編

  コレはヤバいかもしれないと直感が働いたのか、俺は月坡を抱き寄せる。間髪入れずに。 「───ボクが欲しいのは月坡の心と身体だけだから、そうやってボクのことを焦らさないで!ボクのことを怒らせないで!解ってる?」 ボクがどれだけ我慢してるのかを!と、俺の腕の中にいる月坡に喰らいつく。そんな星玻はもう尋常ではなかった。だが、ソレだけ月坡のことが好きで堪らないんだといっているようで、俺にはなにもいえやしなかった。そう、俺も月坡のことが好きで好きで堪らないから。 だから、星玻ががっしりと月坡の腕に自分の腕を廻して俺から月坡を奪おうと引っ張りだすと、俺も負けじともう片方の月坡の腕に自分の腕を廻して月坡を引っ張り返していた。月坡は唖然としていた。星玻は兎も角、俺までそうしてくるとはまったく思わなかったからだろう。 月坡は俺と星玻の顔を交互にみた。そうするとどちらかが力を弱めてくれると期待したのかもしれないが、俺も余裕がなかったから星玻が引っ張った分月坡を引っ張り返していた。当然、綱引きの感じで双方から引っ張られて、月坡は痛いと怒りだす。 怒りだすが、星玻も俺も手を弛めることはいっ切しなかった。ココで月坡の腕を離したらおしまいだと直感で思ったからだ。 ぐいぐいと引っ張られる月坡は、このままでは埒があかないと思ったんだろう。鋭い眼光で睨んだ。 「ちょ、星玻、止めてって!!」 そして、月坡はそう怒鳴る。星玻だけを責める月坡の口調は、一瞬だけ星玻を怯ませた。その隙に俺は月坡を自分の方に引き寄せて星玻の腕を掴んだ。のだが。 「ヤァダ!!ボクに触らないで!!」 星玻は俺の手を簡単に振りほどくと、星玻は悔しそうに俺を睨んで叫んでいた。簡単に弾かれた手がピリピリして痛い。いまの空気のようで物凄くいたたまれなかった。 片や、星玻はもう形振り構っていられないという顔で、月坡にもう一度噛みつく。 「ねぇ、なんでボクのことも愛してくれないの!ボクのことを愛してくれないと酷い目にあわすっていったでしょう!!」 「だから、どうしたっていうの!!」 ソレなのに、月坡の方が星玻よりも激怒して星玻のことを睨んていた。 「なっ!!どうしたもこうしたもないよ!!ボクのいうこと聞きなよ!!」 「なんで!!」 いっこうに怯もうとしない月坡に星玻がとうとう手をあげる。俺は咄嗟に月坡を庇うが、月坡はその俺を星玻から庇うように身を翻した。そして。 「星玻ーぁ!!いま、なにしようとしたの!!僕もいったよね!!色を傷つけることしたらどうなるかって!!」 月坡は俺の腕から自分の腕を引き抜くと、物凄く怖い顔で星玻に怒鳴り返していた。低い声の月坡に星玻もヤバいと思ったのか、自ら腕を引き抜こうとするが月坡はソレを物凄い力で制した。 コレでも月坡は星玻といち卵生の双子なのだ。腕っぷしも当然星玻と同格である。だけど、怒った月坡は星玻でも止めるのにひと苦労するのだ。 そんな月坡は、星玻の腕を掴んで手のひらで何度も星玻のことを叩いていた。 「痛い、ゴメン。許して──」 立場が完全に逆転した星玻は直ぐに謝るが、月坡はソレを許さなかった。 「いまさら謝ったっても絶対に許してあげないんだから!!星玻なんて、大っ嫌い!!もう、絶交なんだから!!顔もみたくない!!」 さんざん星玻のことを叩いてようやく気が済んだのか、月坡は俺の手を引いてリビングからでていこうとするが、俺は月坡に絶交宣言をされてボロボロと泣きだした星玻が心配で仕方がない。アレでもいちおう家族なのだ。恋敵でしち面倒だが、戸籍上では家族なのだ。 「つぎはのヴぁが!!!嫌いっでいっだ!!絶交っでなぁんだよ!!!」 ボクだっで、傷つぐんだぞ!!!とさらに嗚咽を漏らして泣くから、星玻のことが可哀想になる。とはいえ、普段の星玻なら絶交だっていわれても聞かないのに、今日の星玻はなんか汐らしいから俺から慈悲を願おうとしたら、逆に月坡に怒鳴られた。 「煩い、色は黙ってて!コレは、僕と星玻の問題なんだから!」 どうしてソコまで怒るんだと物凄く悲しい顔をしたら、ハッと我に返った月坡が慌てて俺の唇にキスをしてきた。リビングの出入り口でするようなことではないのに、月坡はまったく気にせず俺の口の中に舌をねじ込んでくる。ココまで積極的な月坡は初めてで俺がたじろっていたら、月坡がさらに深く俺のことを求めてきた。 「……ゴメン、色…、…僕を嫌わないで……。…色に嫌われたら、……僕、…生きていけない……」 死んだ方がマシだとまでいってくるから、物凄く慌ててしまう。星玻のことも気になるが、この月坡の感じは星玻よりも危うかった。 「つきは、おれ、つきはをきらってなんかない。だから、しぬっていわないで」 あいしてる、つきは。どんなつきはでもおれはつきはのことがだいすきだよ。だからもうてばなしたくないんだ。俺は月坡の後頭部に手を添えて、もう片方の手で月坡の腰を引き寄せる。 月坡よりも必死になってそういって、月坡の唇に喰らいつく。キスの合間に交わす言葉としては申し分ない。だが、ソレをよしとしないのが星玻だ。 「兄ざん、なんで、ぞうやっで抜げ駆げずんの!ボグだっで月坡のごど好ぎなのに──」 鼻水を垂らして、おいおいと泣いていた星玻がそう怒鳴って、俺に噛みついてくる。こういうところは健全なんだと苦笑いをして、だからといって、月坡を後手に廻すのは許しがたしで、俺は星玻に外方を向けてしまう。 「あ"あああああああああああああぁ!!兄ざんの卑怯モノ!頭脳犯!甲斐性なじ!!」 後頭部でそう叫ばれても、「色…、好き、…大好き。…愛してる……」と艶やかに月坡に囁かれたら、星玻の罵声なんかもう聞こえないも同然だった。 「つきは、おれのことすき?」 俺もココぞとばかりに、何度もそういって月坡に聞いてみる。月坡はふふっと笑って、そして、同然のように何度も俺の問いに応えてくれる。 「好きだよ、色。この世の誰よりも色が好き。好きすぎて、気が狂いそう……」 俺は俺ひとりの思い上がりじゃないんだと思うと物凄く嬉しくって、「つきは、きすだけじゃものたりない。しよう?」そう提案した。すると、月坡も小さく頷いて俺の提案に賛同してくれる。 俺は月坡の身体を抱えあげると水が流れるようにリビングからベッドに移って、月坡と激しく愛し合った。当然、大学は自主休講で、リビングに取り残された星玻に後から呼び出しを喰らったのはいうまでもないだろう。 とはいえ、星玻になんといわれても俺は月坡を二度と手放す気はなかった。 俺の闇は月坡によって掬われた(助けられたという意味ではなく、掬い上げられたという意味を使いたかったから掬われたが使用されている)のだ。 そう、俺の心は月坡の光りに(月坡とはつきの満ち欠けという意味でつけられているから)左右される。 コレからも、ずっと───。 【アレから】─完─  

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