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第5話

 卑しい生まれの貧相な少年は、しかしながら目を瞠るほどに美しい。枢機卿は男色家、特に麗しい少年に目がないと噂される。そうとは知らないジュリオは司教の怒りを買ってしまったと、震える声で小さく「ごめんなさい」と謝った。  このままでは隣町の少年みたいに切り捨てられてしまう。ジュリオは内心で焦るが、頤だけではなく今度は腕まで取られてしまい逃げだすことも叶わない。肌を脂汗がつたい、ジレや下着を軽く濡らす。  舐めるように少年を眺めていた枢機卿は、下卑た笑みを浮かべるとジュリオに提案をする。 「いや、私こそ悪かった。恐怖に足が竦んでは城まで歩けぬだろう、どうだ私の馬車で送ってやろうではないか」  そう話すなり枢機卿は、ジュリオを引きずるように馬車へと押し込めようとする。  恐怖が頂点を極めたジュリオはつぶらな瞳から涙の粒をこぼし、呪文のように何度も「ごめんなさい」と謝ってばかり。これから処刑場にでも連れていかれるのではと、ジュリオは勘違いをしているのだ。  あと少しで馬車へ投げ込まれてしまうところで、怖気に震えるジュリオを枢機卿から助ける幸運が舞い降りる。 「おお、なんだこの化け物はっ! ええい、どうにかしろ──」  突如として空から現れた大きな黒い鳥が枢機卿を襲う。まるで城門を守るガーゴイルのようなそれが、馬車に乗り込もうとする赤い法衣めがけ飛びかかってきた。恐々と身を庇いながら枢機卿が御者に助けを求める。  手綱を放し御者席から急ぎ降りると、御者は枢機卿を連れ怪鳥の鋭い爪が届かない路地に逃げ込む。その様子を見届けた怪鳥が、今度は客車で震えるジュリオに狙いを定めた。 「ひいっ──おおおお願、お願い……助け……っ」  大きなくちばしがジュリオの頬をかすめ、どうか食わないでと身を縮めて乞う。けれどいくら経っても怪鳥はジュリオを襲わず、矯めつ眇めつ何かを吟味しているようだ。  そしてようやくか開かれたくちばし。もうだめだと絶望し、ぎゅっとまぶたを閉じるジュリオの頬を生温かな感触がつたい、とうとう意識を手放してしまった──────

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