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第16話
枢機卿を襲った怪鳥の正体もバルバトスだった。本来の彼は漆黒の翼をもつ気高き魔族であり、人間界に現れるときはワタリガラスのすがたを取る。
ジュリオが宮殿で寝起きするようになって半月。バルバトスは殊の外優しく接してくれて、ともすれば今の生活に馴染みつつある。けれど毎夜のように夢に出てくるのは、ジュリオを案じて消沈する母親のすがただ。
このままではいけない。母親が心配しているから帰らせて欲しい、そうバルバトスに伝えなくては。けれど彼はジュリオが宮殿を出ていくのを許さない。そのために服を与えずにいるのだから。
ジュリオが身に着けているものといえば、耳もとで輝くルビーのピアスと腰に巻くのを許可されたパレオのみ。ルビーの首飾りはずっしりと重く、贈られた日以来外したままだ。
いつものように目を覚ますと、となりで寝息を立てる美丈夫をうっとりと堪能する。彼が目覚めたら思いを打ち明けよう、心で反芻しながら今しばらく麗しき寝姿を眺め見た。
ジュリオが住む世界とは地形や気候が大きく異なる、バルバトスが統治する魔界。空に太陽が昇ることはなく、また星が煌めくこともない。暁ほどに薄暗い環境では植物も育たず、人間が暮らすには苛酷すぎると言ってもいい。
未だ宮殿の外には出してもらえないジュリオ。外気に触れることなく室内にとじ込められていれば、いくら元気が取り柄のジュリオであっても気分が滅入ってしまう。
そこでバルバトスに願う、せめてバルコニーで昼食がしたいと。ジュリオの希望は叶い、以後バルコニーで食事ができるようになった。
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