17 / 33
第17話
母親の許に返して欲しいとバルバトスに言えないまま朝が過ぎ、昼食を楽しむためバルコニーに移動する。向かい合うようにテーブルへ着席すると、よしと覚悟を決めて願いを口にする。
「バルバトス様、お願いがあります」
「なんだ」
「僕がこの王宮にお邪魔してもう半月が経ちます。きっと母さんが心配していると思うので、僕そろそろ家に帰ろうと──」
「だめだっ!」
それまで艶然と柔らかだった表情は一転し、バルバトスは目をつり上げ怒りをあらわにする。地響きがするほどの怒声に飛び上がり、手にするカトラリを皿のうえに落としてしまう。
「ごごご、ごめんなさい……あの、僕……」
願いを一蹴されてしまったジュリオ。耳障りな音を立ててしまったことに謝りながら、恐怖と悲しみに我慢ができず涙をこぼす。だけども一度機嫌を損ねたバルバトスは、ジュリオの謝罪など受けつけようとはしない。
魔王の怒りと連動するように、みる見る宮殿の外は嵐に荒れてゆく。雷鳴が轟とどろき岩山が溶岩を流すと、一面は紅蓮に包まれてしまった。
席から立ち上がったバルバトスから真空の圧力が発生し、テーブルがバルコニーの柵を越え吹き飛ぶ。いよいよ恐怖にとらわるジュリオの腕を掴むと、バルバトスは室内に引きずっていく。
それまで唯一外気に触れることのできたバルコニーはバルバトスの魔力により消滅し、ふたたび窓は消えると無機質な壁に戻ってしまう。意味をなさないカーテンを涙にかすむ目に映しながら、ジュリオは心に灯る生の焔を消してしまうのだった。
ともだちにシェアしよう!