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第19話
「ごめんなさい。でも僕……笑えない。うっ、うえっ……」
うさぎのように目を赤く腫らして、それでも止まることのない涙の粒。真珠のように美しいそれを舌ですくうと、褥で震えるジュリオをバルバトスは腕に包み込む。
「泣くな。どうすればおまえは笑顔を見せる。これまで俺は人間と触れ合ったことがないのだ、どう接していいのか皆目見当もつかん。欲しいものがあれば何でも与えてやるぞ。食いたいものはあるか、俺が最果てまで赴き取ってきてやろう」
「欲しいものなどありません。ただ僕は家に帰りたいだけ」
「だめだっ!……ジュリオ、俺のそばにいてくれ。十年も待ったのだ、もう一秒たりと待てない。約束どおり、おまえは俺の伴侶となるのだ」
川が氾濫はんらんするように止まらなかった涙が、記憶にないバルバトスの約束を聞いた途端ぴたりと止まる。目を瞠り穴が開くほどにバルバトスの顔を見る。その瞳は戸惑いに揺れていて、ジュリオは約束を忘れてしまったのだとバルバトスは気づく。
「十年まえの約束を覚えてはないのか」
「十年、まえ……」
「そうだ。まだおまえは幼かったから、忘れてしまっても不思議はないか」
そう話すバルバトスは、けれど淋しそうに笑う。
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