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第20話

 十年まえを遡るようにバルバトスはまぶたを伏せ語り始める。  魔界に住まう者は別段食事をしなくても生きていける。人間の血液を糧とする者もいるが、多くは怖れや絶望など人々が抱く負の感情を養分とするのだ。  魔族の頂点に立つバルバトスも同じく負の感情を糧とするが、けれど彼はときおり人間界に降り立ち人が食するものを口にする。もとより人間という存在を好ましく思うバルバトスは、愛しき者を恐怖に震撼しんかんさせてまで糧を得ようとはしない。  いつものように人間界にやってきたバルバトスを、貴族共が雇った傭兵部隊が襲う。これまで魔族が糧としてきたのは傲慢な貴族のみ、金と権力をつかい貴族も防衛に出たというわけだ。  油断したバルバトスは翼に怪我を負い、逃げ果せたもの動けなくなってしまう。空から落ちたのは貴族街から離れた場所にある森のなか、近くに湖があり畔ほとりで羽を休めていた。  閉じることのできない片翼を広げ木に凭れていると、そこへ愛らしいひとりの少年がすがたを現す。  少年はバルバトスのそばまで来ると目を輝かせる。大きな鳥に興味津々な少年は、ここで何をしているのか、名前を教えてと問う。けれど魔族は人間に名を知られるわけにはいかない。名を知られると、その者の従属にならなくてはいけないからだ。  けれど少年は屈託のない笑顔でジュリオだと名乗ると、つぎに血のにじむ翼に気づくなり手当を始める。そうは言っても六歳の少年だ、医者のような処置ではなく自分の上衣を脱ぐとそれを湖に沈め、傷口を拭ってやるといったもの。

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