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第6話

「正晴おじさん、終わった」 「よろしい。反省したか?」 正晴おじさんに聞かれ、俺はこくこくと頷いた。結局、花火を30分ほど見ていたため、配達が大幅に遅れてしまった。ただでさえ人手の足りない花火の日に、俺達2人の不在でかなり忙しかったようだ。 罰として店内の片付けと、祭り後の掃除を命じられる。大方済んだ時に、並木には帰宅許可が出たが、俺は暫く居残り作業を続行した。 乱雑だった店内はいつも通りに戻った。明日から通常営業が可能だろう。 時刻は12時を過ぎている。 掃除のために開け放った窓から、どこからともなく虫の声が入ってきた。熱帯夜でも秋はやってくるのだと、季節の変わり目を静かに感じていた。こういう時間は嫌いじゃない。花火大会の賑わいが嘘のように、周囲は静寂に包まれていた。 それにしても花火の並木はいつもと違って怖いくらいに優しかったと回想する。 いつもあんなんだったらいいのに…… 「よく頑張ったね。お疲れさま」 差し出された特製のジンジャーエールを飲み干した。生姜が強めに効いている割には、はちみつの甘さもちゃんと主張してくる。 おじさんは小腹が空いていることも知っていて、小さなパンケーキまで用意してくれた。もぐもぐと味わっている俺を見ながら、目の前の愛しい人が口を開く。 「一槻は、並木君と仲良いね。花火を内緒で見に行ってさ、なんでそんなことしたの?」 「……なんでって……並木が連れてってくれた、だけ……だし……」 「喧嘩ばっかりしていたのは二人っきりになるための口実と思えるくらい妬けたんだけど。僕は一槻と花火が見たかった」 フォークを持った俺の手にやんわりと掌を重ねてきた。 「俺だって見たかったよ。でも、おじさんは河内さんと仲良くしてたでしょ。今日も来てたじゃないか。頻繁に店へ来るし…………も、もしかして河内さんとまた付き合う?」 「河内?突然何を言ってるんだ。あいつと戻るなんて天地がひっくり返っても有り得ないよ。どうしてここで河内が出てくるんだ」 正晴おじさんはカラカラと笑いながら一蹴した。あまりにも有り得ないと吐き捨てるように言うので、俺は拍子抜けする。 「…………本当なの?本当の本当に?」 「本当だよ。僕は一槻には嘘をつかない。もしかしてそれが原因でここ最近元気がなかったのかい?」 全てお見通しだったのかと観念して頷いたら、突然強い力で抱きしめられた。隣に座っていた俺を引き寄せて、すっぽりと腕の中に収まってしまう。 「おじさん……痛いよ」 「そろそろ『おじさん』と呼ぶのをやめようか。僕は一槻にとって『おじさん』ではない存在になりたいんだ」 「無理だ。今更変更できないって。正晴おじさんは正晴おじさんだよ」 「本当にそうと言える?」 見上げた俺にねっとりとした視線を絡めた後、おじさんは濃厚な口付けをくれた。唇が重なっては舌で追いかける。いやらしい大人のキスはおじさんが全て教えてくれた。 苦しくならないように俺の呼吸に合わせて角度を変えてくれるので、気持ちよく彼の唾液を堪能できる。 「25の時に一槻を引き取ってから10年間、大切に育ててきて、無視出来ない感情が芽生えている。一槻は恋人を超越した唯一無二の存在だ。愛してるよ。だから、一生そばにいてくれないか。もうおじさんと親戚の子の関係ではいたくないんだ」 「いいの……?おじさ……正晴さん?」 「一槻、僕だけを見てほしい。可愛い可愛い僕の一槻。誰よりも扇情的でいやらしいよ。ほら…………」 おじさんの手がTシャツへ入り、突起を指の腹で擦り始めた。痺れるような快感が胸の上を走る。随分前からおじさんと親戚の関係以上になっているじゃないかと思ったが、それを伝える状態ではなかった。 「…………あっ、ん……そこ、は……ここ、お店だよ……もう」 「窓が開いてるからね、声はあんまり出さないで」 更には頭がシャツの中へ入ってきて子猫のように舐め始めたので、力が抜けて長椅子へ倒れてしまう。こうなると、正晴おじさんは何を言ってもやめてくれないのだ。 遠くの草むらでスズムシが鳴いているのが聞こえた。

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