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第3話
会社に戻った僕は、喫煙室にいた上司を見つけて中に入って雑談をした。
――こんな夜、一人暮らしの家に帰るのは寂しいですね。
――花田くんならすぐ恋人ができるでしょ。なんでいないの。
――そうですね。身を固めたいんですが、結婚ともなると、恋愛だけでは決めたくなくて。
上司の表情は簡単に変わった。
『取引先の医療メーカーの社長の娘で良かったら』
好都合だった。
――ええ、本当ですか。
驚いて見せた。
けれど世話好きの重役たちは、どんどん話を進めていく。
それが愉快で、働きアリを見つめるキリギリスのように僕は笑っていた。
お見合いの話を進めて、数日で彼が僕の家に来たのは、計算通りだったしね。
「花田」
玄関で迎え入れてすぐに胸倉をつかまれて壁に押し付けられた。
怒っている彼を見上げるのは、ぞくぞくして楽しい。
「急に乱暴だね」
「どういうことだ、てめえ」
「聞きたいのは僕の方だよ。数か月も放置されていて、会いに来たかと思えば、暴力。酷い男だね」
胸倉をつかんだ手を掴み返す。
そして苦しいよって少し甘えた声を出した。
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