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第5話
彼は、ひどい男だった。
あんなにいつも一緒に居たのに、僕を親友のように扱ってくれていたのに。
『結婚することになった』
呼び出した僕に、彼はそう告げた。
君の一番は僕だと勘違いしていた、バカな僕はその場で固まった。
恥ずかしい。
みっともない。
すごく、惨め。
馬鹿みたい。
滑稽。
愚か。
可哀そう。
色んな言葉で殴られて、夢から覚めさせられた。
現実は、痛い。
痛みで胸が張り裂けそうになった。
「花田?」
驚いた彼は、胸を押さえた僕に駆け寄る。
「胸が痛いのか? 薬は?」
「処方箋なんて、ないよ」
駆け寄ってきた優しい彼に、僕は唇を這わせた。
いや、無理やり押し付けたってのが正解かな。
「花田」
「自覚してしまったから、君のそばにはいられない。悪いね」
短い言葉の中で理解してくれたのだろう。
彼の瞳が見開かれ、そして深い翡翠色に染めっていく。
たったその一言で気づいてくれるぐらい、心が通い合っているのに、ひどい男だね。
どうしても結婚おめでとうと言えず、その場を去ることしかできなかった。
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