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みんな知ってる(鈴木圭介)
「銭湯?」
ヒロから飛び出た、耳慣れない言葉に、俺は思わずそう聞き返した。
一緒にメシを食いながら聞いていたシノとサワも、同じくヒロを振り返る。
いつものように幼馴染四人で集まって昼休みを過ごす光景はもはや日常風景で、今更面白いものはないのだが、ヒロが発したその言葉は、妙に新鮮に感じた。
「そう。今リフォーム中で。お風呂と台所あと、トイレ。まあ、水回りってやつだよね。二週間ぐらいって言ってたかな。お風呂使えないから」
「へー。親父さん定年したもんな」
ヒロの説明に、シノが相槌を打つ。
なるほど。確かに、定年後にリフォームするなんて、よく聞くかもしれない。
ヒロの家は四人の家の中では一番古く、シャワーがなかった。家も昔の作りで、キッチンも狭く使いにくいと、料理好きらしい広瀬の母親が漏らしていたのを思い出す。
俺の家も母親が嫁に来る前に死んだ祖父が建てたものらしくかなり古いのだが、シャワーだけは後付けであるので、そこはヒロよりマシだったのだが、この感じだと俺の家の方が古くなりそうだ。
「で、一人で行ってもつまんないし、圭介でも誘おうかと」
「おう、良いな」
確か近所にまだ古い銭湯があったと思い出す。昔祖父に連れられて行った記憶があるにはあるが、殆ど利用したことはないはずだ。
「俺も! 俺もー!!」
「良いな。牛乳飲もうぜ!」
サワとシノも、名乗りを上げる。
正直一緒に行くとうるさそうなのだが―――ヒロの方は、最初から誘わなくてもそうなると思っていたようで、笑顔で何も言わないままだ。
「北川誘ったら?」
「アホ。俺が正気でなくなるわ」
ケロっとそう言うヒロに、俺は牛乳を飲みながらそう返事をする。
可愛い恋人、アヤトと一緒にお風呂なんて、公衆浴場では無理なことなのだ。
「僕も牧島くんを誘うわけにはねえ」
「お前にもそんな可愛らしい心があったの?」
牧島との関係を冷やかしたつもりでそう言ったのだが、ヒロの反応は若干違った。
「いや、人前に出られる感じじゃないよ。結構、僕痕付けちゃうから」
「お前なっ」
平然ととそう言う幼馴染に、思わず赤面しながら突っ込みを入れる。
「もう夏なんだから、自重してやれよ」
「大丈夫じゃない? ちょっとぐらいなら見られても別に、ちょっと彼女と激しめのエッチをしたとしか思わないでしょ」
「――――」
あくまでも平然としたヒロに、俺は呆れてため息をついた。
どうもヒロの感覚は、少しずれているようだと、頭が痛くなる。
「お前ね、どう見ても歯型的に男でしょ。アレ。この前鎖骨見えてたぞ」
「ああ―――鋭い人にはわかっちゃうのか。うーん……ま、仕方がないか。夏は自重する」
「そうしてやれ」
俺はため息をついて、キャっキャとに銭湯にひよこを持ってって良いかどうかを話し合っているシノとサワを見た。
(こいつら、平和で良いよなあ)
平和でない思考の幼馴染と見比べて、苦笑いがこみあげる。
「それにしても。良いなあ、新しい風呂。うちもリフォームしねーかなあ」
いっそ建て直さねーかな。無理か。
しかし自分は死んだ祖父の部屋をもらってるからいいものの、弟のカズトは未だ母親と一緒の部屋でかなり不憫だ。そろそろ不満が出るんじゃないだろうか。
「うん。シャワーね、あった方が牧島くんもいいでしょって、お母さんが」
ヒロのその言葉に、俺は押し黙った。
シャワーあった方が良いでしょって、お前。
「――――ヒロ、お前何知られてんの?」
ヒロの発言に、幼馴染の母親がすでに牧島と息子の関係を知っているのだと気が付いて、俺はここにいない牧島に、少しだけ同情の念を送ったのだった。
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