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出来すぎの弟。(鈴木圭介)

(アヤト――――)  晴れて両想いの可愛い恋人なのに。いつも邪魔ばかりされて全然アヤトに触れられない。  結局こうやって、一人でアヤトのことを考えながらするしかないわけで。 「ア、ヤ……」  思わず小さく呻いて、吐き出した熱に、机に顔を突っ伏した。 「アヤト―――」  触りたい。  キスしたい。  抱きしめたい。  俺の腕の中で、めちゃくちゃに泣かせたい。  俺はスマートフォンの中のアヤトの写真を見つめて、ため息をついた。  待ちに待った休日に、俺は意気揚々とアヤトを呼び出した。  相変わらず美人の恋人に、惚れ惚れしながら手招きして、家に上がったところで奥から弟のカズトがやってきた。 「あれ、出掛けんの?」  出かけるとは言っていなかったはずだが、一人は慌てたように鞄を抱えている。 「う、うん。さっきユータから電話あってさ。遊んでくるから、遅くなると思うっ!」 「? そうか。メシ要らねーときは電話しろよ」 「うん」  カズトはそう言うと、アヤトに会釈だけして去って行ってしまった。  嵐のように出ていく弟に、俺もアヤトも唖然とするが、とりあえずアヤトと二人っきりになれたことは都合が良いので、俺はニンマリとしながらアヤトの手を取った。  そんな事が続いたある日。  アヤトが、おもむろに切り出した。 「あのさ、圭介」 「ん?」  ちょっとだけ言いにくそうに、眉を潜めるアヤトに、俺は首を傾げた。  何か心配事でもあるんだろうか。 「カズトくん、の事なんだけど」 「? カズト? 何?」  アヤトは一瞬迷って、それから口を開いた。 「俺、嫌われてる?」 「え」  アヤトの言葉に驚いて、そう言うが、アヤトはあくまでも真面目だ。 「―――だって、俺が来るといっつも、どこか出掛けちゃう……じゃん」 「―――――」  確かに。  そう言われればそんな気がして、思い返してみる。  今までは遊びに行くときは、聞いてもいないのにどこに行く、誰と会うと、はしゃいで話してくるまだまだ甘えん坊な奴なのだが、ここ最近は急に出かけることが多くなった。しかも、大体夕飯時まで帰ってこない。  それは大抵、アヤトが家に来るタイミングな気がする。 「……嫌われてる、ってことはないと思うんだが……。そもそも、アイツあんま好き嫌いで分けるやつじゃねーし」 「う、ん……そうだとは思うんだけど、なんかね」 「……」  もしかして、恋人だって、知られてるんだろうか。  思春期の葛藤が、兄の恋人が男であるという事実に拒絶反応してるんだろうか。 「微妙な時期だから、なあ。……俺から、それとなく聞いてみるわ」 「うん。―――もし、そうだったら、圭介の家ではあんまり会わないようにしよう」  それはそれで、寂しいんだけど。  恋人の優しい配慮に、俺も頷いて、カズトに話を聞くことにした。 「おい、カズ。ちょっと」  帰宅したカズトを呼び止めて部屋に招くと、カズトはきょとんとした様子で部屋に入ってきた。特に俺に対しては何か拒絶するような雰囲気はないのだが。 「――――あのさ、お前、アヤト苦手?」  遠まわしにそう聞くと、カズトはびっくりした顔をした。 「え!? なんで、全然っ! 大好きだよ!」 「――――」  そこまではっきりした返事をされるとも思っていなかったので、思わず口ごもってしまう。  じゃあ、なんでだよ。 「……アヤトが、お前に避けられてるかも、って、心配してんだけど」 「あ―――…」  それは思い当ったらしく、カズトはバツが悪そうな顔をした。  どうやら避けていたのは本当らしい。 「何で?」 「………」  俺の言葉に、カズトはポッと顔を赤くした。  なんでだよ。 「あの、さ、兄ちゃん」 「ん?」  カズトが、ごにょごにょと話し始める。 「兄ちゃん、アヤトさんの事、好きなんだろ?」 「―――――」  何で知ってる。いや、やっぱり知ってたのか。  そう思って、思わず絶句していると、カズトが慌てて話し始める。 「いやっ! その、あの、……覗くつもりは……無かったんだけどさっ!? ―――兄ちゃん、アヤトさんオカズにしてただろ」 「   」  今度こそ言葉を失って、俺は言葉を失う。  いや。  良いんだけどさ。弟に見られるぐらい。  襖にプライバシーなんかねーし。  え。  って、つまり? 「アヤトさん、美人だし、好きになるのわかるけどさー……、ハードル、高そうじゃん。男だし……高嶺の花っていうの?」 「―――つまり、アヤトを落とすのにちょっと協力してやろうと?」  俺の言葉に、カズトは「やろうとか、そんな上からな感じじゃないよ!」と言いながら、その言葉自体は否定しなかった。  つまりだ。  カズトは俺がアヤトに叶わぬ恋慕を抱いているのではないかと思い、兄の恋を実らせるために協力しようとして、お邪魔な自分は退場しようと、そういうわけか。  いや、俺とアヤト、もう恋人なんだけどな? 「お前は、兄想いの良い弟だな」  そう言って俺は、カズトの頭をぽんぽんと撫でた。  カズトは恥ずかしそうに笑う。 「でもま、アヤトと仲良くしてやってよ。嫌われてるかもって、心配してたからさ」 「うんっ。兄ちゃんも、がんばってな!」 「―――おう」  まあ、しばらくは勘違いさせておこう。  カズトがいるとやることやれないのは事実だし。  いずれにせよ、家族の中に味方ができたのは心強いというものだ。  まったく。知らないところで、気を使ってもらっていたのだと改めて実感する。  でもちょっと、出来すぎじゃないのか?  こうなったら、弟に運命の相手ができた時には、俺も応援してやらねーと。  な。

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