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第5話

晴矢の運転で、走ること30分くらい経っただろうか。 つまらない世間話だが、会話は途切れることは無かった。 晴矢はあまり口数が多い方ではないが、聞き上手なのは確かだ。 信号のない道のりで、車が止まることはない為、横顔を盗み見ている事も晴矢は気付くことは無いーーと思う。 「ーーあ、そう言えばお昼は?」 一瞬こちらを見た晴矢と視線が絡む。 思わず目を逸らしてしまったが、隣から小さく笑う声が、分かっていたよ、と言わんばかりだ。 「で、電車で駅弁食べた。どうせここらへんなんもねーし。なんで? 腹減った?」 「いや、食べて無かったら(うち)でーーと思ってただけ」 「え?!?!」 ーーミスった。 大概、食事は家で済ます為、晴矢の手料理を食べれる機会は早々無い。何回か残り物をつまませてもらったが、それがまた控えめに言って絶品なのだ。 何度か強請ったが、あれよこれよと(かわ)され作って貰える事は無かった。 だから、この貴重な提案を逃す訳にはいかないーーまぁ、それだけの理由ではないが。 慌てふためく俺を他所に、晴矢は左手の甲で口元を抑え笑いを堪えていた。 どう取り繕うか、と考える暇もなく俺の馬鹿な口は動き出した。 「でも、まだ食えるし……育ち盛りだし――」 「ふっーー高3はさすがに育ち盛りじゃないだろ」 「っーーでも、なんか腹減ってきた気がする……かも?」 「ばーか、 夜飯が食べれなくなるだろう」 「……なら、夜食いに行くから取っておいてよ……晴矢さんの飯、食いたい……」 初日はいつも祖母が食べ切れない程の夕飯を作っていて、歓迎してくれるのは毎年の恒例だ。そんな祖母の気持ちを差し置いて、自分勝手な行動を取るほど餓鬼でもない。 分かってはいるが、晴矢との時間を優先したいと思う事は悪なのかーーそんなジレンマが舌を重くしていった。 「ーーーー……紀智、来て」 (おもむろ)に車を停めた晴矢は、後部座席へ移り腕を引っ張ってきた。 「え……なんだよ」 誘われるまま、後ろへと移動する。 わけも分からず隣に座ったが、どうやら違っていたようだ。 晴矢は自身の(もも)を叩き、催促してきた。 ーーいや、これって……。 「い、いやだ……」 別に嫌な訳では無かったが、思わず出てしまった。 この後、起こるであろう事を想像するとどうしても尻込みしてしまう。しかも、真昼間の車内などどう考えても未成年にはハードルが高い。 「ーー大丈夫だから、早く」 晴矢は意外と頑固な所がある。 こうと言い出したらきかない事は多々あったが、このような事を強要する事は珍しい。 行為の時は俺を気遣っているのが、言葉や触り方ひとつでも分かるほどだった。 だからいつもと違う雰囲気が、恥ずかしくもあり躊躇してしまう理由でもある。 だが、何を思った所で従ってしまうのはよく言う、惚れた弱みと言うやつなんだろうか。

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