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第6話
ーーでも、これ……。
四輪駆動車の車内は広めではあるが、やはり小柄でもない自分が膝に座ると少し窮屈に思える。
座席から落ちないように腰を晴矢の方に近づけたが、それはそれで落ち着かない。
「んー……うん??」
急にシートを倒され、晴矢の上半身に角度がつき見下ろす体勢になる。
突然の事に宙に取り残されてしまった手を、何処に持っていけばいいかも分からない。
なんとか見つめ合ってはいるが、沈黙が緊張感を高めていく。
「えっと……キス、する?」
馬鹿な事を聞いてしまった。
言ったと同時に気付いたが、発した言葉を回収する術は俺にはない。
「ーー紀智は? したい?」
「なっーー!! もう、いいわ!」
顔面の血が沸き立つのが分かる。首まで熱くて仕方ない。
今日の晴矢はやはり、意地が悪い気がする。
公共の場でいきなりしてきたくせに、こんなあからさまな雰囲気の中ではしてくれないーーなぜこんな態度をされるのか、解らない。
ーー去年も、さっきだって自分からしてくれたじゃん……。
そんな女々しい事を言えるはずもなく、ただ不満を顔に出すのが精一杯だった。
「ーーごめん、したい……紀智から、して欲しい」
やっぱり何かおかしい。
晴矢が焦っているように感じる。いつも余裕綽々で、スマートな姿しか知らないからか、初めて見る表情に先程までとは違う、胸の高鳴りを覚えた。
ーー……ちょっと、可愛いじゃん。
「さ、最初からそう言えよ」
「ーーあぁ、ごめんな?」
勝った、よく分からないがなんだか晴矢に初めて勝った気がする。
しおらしい姿とは裏腹に、尻を撫で回している手は気に入らないがーー今は、それも許せる気分だ。
「……ん、したよ。晴矢さんもしてよ」
触れるだけの素っ気ないものだったが、嬉しそうに微笑んでいるし、手のひらから感じる晴矢の鼓動も満足だと、荒ぶっている。
「……いいよ、お返ししないとなーー」
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