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第7話
うなじをゆるりと撫でらただけで全身が期待している。引き寄せられるより先に、自ら近付いていってしまうーー晴矢が呼吸するたび、吸い寄せられているのではないかと錯覚する程、自然に唇は重なっていた。
対称的に、少し厚みのある晴矢の唇が俺の唇をついばむ。何度も繰り返すうちに、うっすら入口を開いてしまっている浅ましい自分がいた。
「……晴矢、さん」
名前を呼んで、少しだけ催促してみた。
多分、晴矢からしたら俺の考えている事なんてお見通しなんだろうーー。
そう考えたら、癪な気もするが。
「…………晴矢さん、もっと」
晴矢の唇を舐めてみた。さっきみたいにちょっとでも焦ってくれれば、俺の勝ちだ。
人生イージーモードなんて、俺の前では絶対に言わせない。
「……可愛い事、するな?」
「あ? っおわっ!!」
焦るどころか、満面の笑みでこちらを見てきた。
いきなり起き上がった晴矢は、運転席側との間の仕切りに付いていたカーテンを引いていたーー瞬間、後頭部から引き寄せられ、強引に口付けてきた。
「んっーーゥんっ……」
早急に舌を入れられ、まともに抵抗出来ないまま口内を愛撫される。
漏れ出す自分の声や、舌が絡み合う度発する水音も、もちろん恥ずかしいが、この作られた空間が羞恥心を倍増させていく。
カーテンで仕切られた事により、自然光が直接入って来る事はないし、他人に見られると言う心配もないーーだが、後部座席のガラスはスモークを貼っているとはいえ、こちらから外は丸見えである。
なんだがそわそわしてしまい、目を閉じる事が出来ない。
ーーお、落ち着かねぇー。
ふと、うっすら瞳を開いた晴矢と目が合う。
大袈裟なくらい肩が跳ねてしまった。
「ーーずっと見てたのか? えっち」
「ち、違う! 落ち着かねぇんだよ……マジックミラーっぽくて……AVかよ!」
あ、ヤバい、と思った時には遅かった。
晴矢は声を出して笑い出した。ムードも何もあったもんじゃない。やはり俺はどうしようも無く餓鬼だ。
「ーーっ! 笑うな、うぜぇ」
「ごめん、ごめん。でもさ……やっぱり、えっちじゃん」
耳元で囁かれた低音が腰に響く。
先程まで馬鹿笑いしていたやつとは思えないくらい、艶っぽい視線を送られ沈みかけていた劣情を引っ張り上げらる。
俺にはない大人の余裕を感じるーーそれが羨ましくもあり、腹も立つ。
「ーーん? どうした?」
眉間を親指で撫でらる。無意識に表情に出ていたのかも知れない。
そう言う、細かい所まで気遣ってくれる所が好きだーー何も言わない俺を責める事もなく、優しく見つめるのその瞳も。
数え出したらきりがないが、全部ーー晴矢が好きだ。
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