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第9話
「……暑い」
晴矢に送ってもらった後、なんとか涼しい場所を確保しそのまま寝てしまったらい。
あの後、最後まで致すことなく家に帰されてしまい、持て余した熱を冷ますため、縁側の床板に張り付いた所までは記憶がある。
ーー……6時か。
スマホを開くと、SNSの通知が大量に出てきた。クラスのグループチャットにはどうでもいい事ばかり呟かれており、スクロールする指が早くなる。
ーー今、何してるとか誰が興味あんだよ。
クラスメイトの何人かから個人宛に来ているメッセージだった。
全部が、今から暇なら遊ぼう。そう言った内容だ。
笑えてくる。
旅行に行くと、確かに言った、一応。誰ひとり話を聞いていなかった証拠だ。
ーー俺は晴矢にメールすら送れねぇのに。
「…………あー!! めんどくさっ」
なんでもかんでも晴矢にこじつけてしまう、この乙女チックな脳内が腹立たしい。
どうにかしたいが、俺の意思でどうこうできる問題でもないから厄介だ。
汗で張り付いたTシャツの如く、鬱陶しい。
「……ばあちゃーん! 風呂入ってくるわ!」
奥の台所から、祖母の返事が微かに聞こえた。何か言っているようだが、上手く聞き取れない。聞き返すのも面倒だし、Tシャツも脱いでしまったし、後でもいいだろう。
「ーー汗やばっ!」
下着までぐしょぐしょに濡れていた。グレーの下着がまだら模様になり、粗相をしたかの様な状態だ。
それにしても、なんで今の時代クーラーがついてないんだ。
確かに、山の中で地元に比べれば涼しい気もするがーー熱中症とか怖くないものなのか。
まぁ、今みたいに風呂で水浴びでもすれば事足りるのか。
ーー……そう言えば、前に『暑いなら川にでも行ってこい!』ってじいちゃんに言われたな。
中2の時だったか、思春期真っ盛りな俺は文句しか言わない時期があった。
その時最も、気に食わなかったのがこの暑さだ。クーラーを付けろとわがままを当然のように言っていた。
その結果、祖父の堪忍袋の緒が切れた。
ーーんで、川に置き去りにされた、と。
あの時、祖父に初めて怒られたのを今でも鮮明に覚えている。
優しい祖父しか知らなかったから、その緩急に恐慄 いてしまい正直、漏らしてしまった。
今日みたいな、汗でそう見えたと言う事ではない。本当にお漏らしをしたーー少しだけ。
その後、1人川に置いてけぼりにされ、恥ずかしいやら、悔しいやらでヤケクソになり、服を着たまま川に飛び込んだのだ。
「ーーーーあっ……」
ーー……あの時……晴矢に会ったんだよな……。
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