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第13話

今、俺は非常に悶々としている。 理由はひとつ。真下で寝息を立てているこの男の存在だ。 (さかのぼ)ること、3時間前ーー。 晴矢が服を着替えて、(うち)に戻ってくると、宴が始まった。 昼間祖母に会った際に、夕飯に誘われていた様だ。風呂に行く前、聞き取れなかった祖母の言葉は、この事を言っていたらしい。 祖父母に俺、晴矢の4人だが、並べられた料理は軽く10人前はあったと思う。いつも、俺が体験している量よりもはるかに多く、祖母の気合いを感じた。 祖母は面食いである。 毎年、お決まりの台詞は『きいちゃんがイケメンだから作り過ぎた』、だ。意味不明にも聞こえるが、俺のプロファイリングが合っていれば、イケメンを見ると気分が上がる。故に張り切るーーそして、作り過ぎる。 実際、父と弟だけでこちらに来た時は特に多くはなかったらしい。二人はイケメンと言う程でもない、身内にもシビアなようだ。 そして今年の台詞は『晴矢くんがイケメンだから』、と言い放った。目の前に孫が居るのが見えていないのかーーやはり、身内贔屓はしないらしい。 そのため、あのテーブルを埋め尽くす程の晩餐は晴矢への評価と直結している。 俺が分かるくらいあからさまなので、長年連れ添っている祖父が気づかないはずも無く、晴矢は着いて早々にロックオンされてしまった。 優しく微笑み、ガンガン泡盛を晴矢のグラスについでいる祖父は、もう悪魔にしか見えなかった。止めに入っても良かったがーーそんな気ににはなれなかった。理由は想像して頂きたい。 そして、1時間前ーー。 寝る前に、と再び風呂へと行っていた間も祖父は手を緩めなかったが、流石に祖母が止めに入ったらしい。 出てきた俺に、晴矢を押し付け2人とも自室へと戻ってしまった。 ーーいやいや、どうすればいんだよ。 俺の膝の上に転がって来た晴矢は、何か糸が切れた様に眠りに落ちた。 祖父母にしっかりと挨拶するまで、意識を保っていた所は流石だと思うが、こんな無防備な姿を見るのは初めてで、少し心配にもなる。 台所のテーブルへと移動された、空の酒瓶の数を見る限り弱くは無さそうだがーー相当無茶をさせたんだとは思う。

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