19 / 61
第19話
「ーーえ? あ……酒飲みすぎた? 勃たねぇなら、俺がーー」
「ごめん、そうじゃない……違、う……」
言い淀んだ晴矢の表情が気になる。
怒っているようで、悲しそうで、苦しそうでもある。どれにしても良い印象は受けない。
本能的に嫌な予感がした。
「ま、まあ、体調は仕方ないし、今日はゆっくりしろよ」
思い切り笑顔を作ってみたが、頬が引き攣ったのが分かった。
晴矢にバレないよう、脱ぎ捨てていたシャツを取りに向かう。
「……紀智、話しがある」
予想していた通りのセリフに一瞬、動きが鈍くなってしまう。
背後から聞こえた声は、消え入りそうなくらい小さかったが、はっきりと芯まで届いてきて、肝を冷やした。
「じゃあ、また明日な!」
無意識に語尾が強くなった。これで話を終わらせて欲しいーーそう願うと、力が入ってしまっていた。
しかし、そんな子供騙しは通用しなかったようだ。
「紀智、聞いて」
寝室を出ようとしたが、それは叶わなかった。掴まれた手首が、痛いーー。
「……帰る、から離せ」
「紀智、聞いてーー」
「だから! 聞かねぇっつってんだろ!」
「紀智! 聞けーーっ!」
重くのしかかってきた声が、動きを制御させたーー俺に、声を荒らげるなど初めてだ。
動揺を抑えきれない身体は、小刻みに震え出す。
「ーーごめん、話したい事があるんだ……聞いて欲しい」
「ーーっ! ききたくない……嫌だ、別れねぇからな……いや、付き合ってねぇ、けど……けど俺、晴矢さんと離れたくなーー」
「ーー俺は晴矢じゃない」
ともだちにシェアしよう!