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第19話

「ーーえ? あ……酒飲みすぎた? 勃たねぇなら、俺がーー」 「ごめん、そうじゃない……違、う……」 言い淀んだ晴矢の表情が気になる。 怒っているようで、悲しそうで、苦しそうでもある。どれにしても良い印象は受けない。 本能的に嫌な予感がした。 「ま、まあ、体調は仕方ないし、今日はゆっくりしろよ」 思い切り笑顔を作ってみたが、頬が引き攣ったのが分かった。 晴矢にバレないよう、脱ぎ捨てていたシャツを取りに向かう。 「……紀智、話しがある」 予想していた通りのセリフに一瞬、動きが鈍くなってしまう。 背後から聞こえた声は、消え入りそうなくらい小さかったが、はっきりと芯まで届いてきて、肝を冷やした。 「じゃあ、また明日な!」 無意識に語尾が強くなった。これで話を終わらせて欲しいーーそう願うと、力が入ってしまっていた。 しかし、そんな子供騙しは通用しなかったようだ。 「紀智、聞いて」 寝室を出ようとしたが、それは叶わなかった。掴まれた手首が、痛いーー。 「……帰る、から離せ」 「紀智、聞いてーー」 「だから! 聞かねぇっつってんだろ!」 「紀智! 聞けーーっ!」 重くのしかかってきた声が、動きを制御させたーー俺に、声を荒らげるなど初めてだ。 動揺を抑えきれない身体は、小刻みに震え出す。 「ーーごめん、話したい事があるんだ……聞いて欲しい」 「ーーっ! ききたくない……嫌だ、別れねぇからな……いや、付き合ってねぇ、けど……けど俺、晴矢さんと離れたくなーー」 「ーー俺は晴矢じゃない」

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