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第20話

「…………はあ?」 予想の斜め上をすっ飛んで行った発言に、思わず振り返り一応、確認した。 目の前にいる男は、確かに俺の知っている晴矢で間違いない。 何を言い出したのかと思う反面、自分の想像していたシナリオとは違った事に、肩の力は抜けていった。 「……まだ、酔ってる? 飲み過ぎじゃね?」 「……真面目に聞いてくれ」 安心感から笑いが漏れる。 そんな俺の手を引き、連れられたままベッドの端に2人で腰を降ろした。 「アホくせぇーー晴矢さんこそ真面目な顔して何言ってんだ」 「だから……晴矢じゃない」 「まだ言う? はいはい、じゃあ誰なんですかー?」 寝転がり適当に聞き流していた所、差し出されたカードを受け取った。 「免許証? なんでこんなもんーー」 思わず二度見したそこには、見知った顔写真とーー氏名の欄に知らない名前が記載されていた。 「ーー九重(ここのえ)……()(つき)……?」 「……九重伊月(ここのえいづき)、俺の名前だ」 ああ『イヅキ』と読むのか、など考えている俺はまだ冷静らしい。 ここまでされたら、さすがに酔っ払いの戯言とも言えなくなるが、何故偽名を使っていたかという疑問にも直結した。 「なんで……嘘ついてた? 個人情報とかそう言う感じ……?」 今のご時世で考えれば、この理由が妥当だろう。と言うより、自分の中で1番理解出来ると思った事が口から出ていた。 少しの静寂の後、向かい合うよう座り直した晴矢ーーもとい、伊月と名乗る男は口を開いた。 「冷静に……最後まで、聞いてくれるか?」 「はあ? 冷静だってーーまあ嘘ついてた事はムカつくけどな」 何時になく、真剣な表情を目の当たりにすると、自分まで引っ張られ、なんとなく緊張感がうまれてくる。

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