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第21話
「……この家の事、話したのは覚えてるか?」
「え? ああ……お兄さんから貰ったっんだよな」
忘れるはずがない。この数年間でした会話を何度、頭の中で反復させた事だろう。
この話は、出会った次の日にした会話である。偶然、庭先に出ていた姿を発見し、お隣だと言う事に気付いた時は、それは嬉しかった。
お隣が空き家になって、暫く人は居ないと祖母から聞いていたので、息子か孫かと思ったがそうでは無く、お兄さんが買い取り譲り受けた別荘になる、という事を聞いた。
「……その兄が、晴矢だ」
「はぁ?」
偽名は兄からなのか、と納得してしまいそうになるが、そう言うことでは無い。
俺の聞いた質問の答えには不十分だ。
「ーーいやいや、だから、なんでそんな嘘ついてたんだよ」
「……初めて会った日ーーあの日、紀智と話したのは、晴矢なんだよ」
「……はぁ……?」
話しが上手く飲み込めない。
どう記憶を辿っても、あの日出会ったのも間違いなく、目の前にいる男だ。
印象的なこの顔を見間違うはずはない。
双子なら有り得るのか、と頭をフル回転させどうにか納得行く答えに辿り着くが、それも一瞬にして、打ち消されるーー。
「……いや、いやありえねぇだろ、だって……お兄さん、死んだって言ってたよな? それも嘘なのか……?」
「……それは嘘じゃないーー5年前、交通事故で亡くなってる」
俺の手首を掴んでいた、伊月の手に力が入った。そこから、血の巡りが悪くなったのか、頭部まで上手く回って来ないーー整理のつかない頭で必死に言葉を紡ぎ出した。
「ーーいや、意味わかんねぇ……お前は晴矢じゃなくて伊月で……晴矢は兄貴、で……死んでて……でも、晴矢と会って、た? いやいやあれは、お前だったじゃん! もう……マジで意味わかんねぇよ……っ!」
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