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第23話

伊月の話はしっかりと聞こえている。だが、理解出来るかと言われれば別の話しになる。本質が全く見えてこないーー。 「……意味、わかんねぇんだけど」 「……だよな……病気も疑ったが……これを見て確信した」 伊月からまた、紙を渡された。 四つ折りにした紙を開くと『お前の身体借りてるから』と書かれていた。 これで、察しがつかない程馬鹿ではないが、俺の想像している事が正しいのかも解らない。 その考えを口に出した方が、馬鹿なんじゃないのかと思うと、言葉にする事は難しかった。 「ーー『晴矢』は時々、俺に入り込んで紀智と会っていたんだ……その体験が夢……俺の記憶として蓄積されてる」 想像通りで、空いた口が塞がらない。 口が空回りし、上手く言葉出て来ないが、何とか絞り出した。 「ーーフィクション?」 情けないが、その一言しか出てこなかった。 寧ろ、こんな混乱状態で発声出来た事を褒めて欲しい。 「……本当だ。あいつとやり取りした動画も残ってる……みるか?」 「いやっ……いい、みない……ちょっと、まって……」 これ以上情報を増やされたら、頭が爆発してしまいそうだ。 とりあえず聞きたいことは山ほどあるし、にわかには信じられないものである。 そう思うと、考えられる選択肢はひとつしかなかった。 「……どうせ、作り話だろ? 俺の事……めんどくさくなっただけじゃん? そ…な、ヤリたくねぇならそう言えよ! なんで、今さら……言ってくんだよ……っ!」 「ーー俺は、お前の事……一度も抱いてない……お前を抱いてたのは『晴矢』だ」 「…………はぁ?」 心臓が抉られたような感覚だった。その空いた隙間を埋めていくのは怒りだけでーーもう、自分では止められなかった。 「ーーふざけんじゃねぇよ! そんなの、全部信じろって方がおかしいだろ! 何でもかんでも兄貴のせいにして……俺が幽霊とヤッたって?! 自分のせいにしたくないだけ……だろ? 自分のケツくらい……自分で、拭け!」 息も絶え絶えに怒鳴り散らし、矢継ぎ早に家を飛び出していたーー伊月が、俺を引き止めてくれる事はなかったーー。

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