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第27話

「はぁ……? なにって……」 唐突な問に疑問符しか浮かばないが、薄ぼやけた記憶を辿るとーーとんでもない事を思い出し全身から汗が噴き出してくる。 万が一の為ーーいや、だいぶ期待していた俺は健気にも夜の準備をしていた。 「キレイキレイしてたよなぁ? 尻ーー」 「あー!! いい! もう、いい!」 急いで大声でかき消そうと思ったが、間に合わなかった。 顔から火が出そうで、手で扇ぐーー何で知ってるのかと、言いたい所だが、答えは分かりきっている。 確かに、あの時は細心の注意を払っており、誰も周りに居なかった事は確認している。実際居間で談笑している3人の声も、微かに聞こえていたし、念の為脱衣場の引き戸に突っ張り棒までしていたのだ。誰か入ってくれば確実に気付いたはずだーー実体のあるものだったら、という事になるが。 「……マジかよ」 「マジ、だな」 自然と頭を抱え込んでいた。 だが、同時に納得出来た気がする。 否定しようもない事実に、俺は腹を括ることにした。 「……本当に、晴矢、さん……なんだよな?」 「ああ、久しぶりーーいや、初めましてか?」 あまりにもあっけらかんとした物言いに呆れるが、今はそれで助かっている気がする。 短時間でここまで受け入れる体制が出来たのは、間違いなくこの軽い言動が関係しているだろう。 計算なのか、素なのかーーとにかく掴みどころが無さそうな男ではあるが、悪い印象は受けなかった。だがーー。 「……俺の知ってる晴矢さんと、全然違うけど?」 「あー……すまん、伊月のフリしてたからな。身体はアイツだしな?」 「ーーはぁ? 最初に言ってくれたら、こんな……っ」 また感情に流され、喚きそうになった。 握った拳を口元に当て、なんとか塞き止めたが、今にも離してしまいそうだ。 「ーーどうした? 今日は大人しいじゃねぇか……言いたい事があるなら、いつもみたいに言えよ」 枷を外され覗き込んで来た晴矢と目が合った。 優しく細まった目元が、見知ったもので胸を締め付けてくるーーこの目を前にすると、色んな感情が入り交じり、どれを選択すればいいのか分からなくなってしまうーー。

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