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第29話
「ーーそうだな……悪かった」
首の付け根当たりをトントン、と軽く叩き背中を暖かい手が優しく撫でる。
何処か他人事の様に思えた事が、すっと自身の中に入って来た気がした。
悩んでいるとき、怒ってるとき、どうしようもないとき、俺を落ち着かせてくれる大きな手を忘れる筈がないーーその何気無い行動は、紛れもなく『晴矢』だと言う事を証明していた。
少しだけ困ったように眉を下げ、微笑むのもお決まりの顔で俺の台詞も決まっている。
「……変な顔」
「ーー言ってろ……」
鼻で笑った晴矢は、そのまま俺の頭を荒っぽく撫で回すーー。
何度も繰り返したやり取りに、安堵し肩の力が抜けているのを感じた。
「……何でこんな事になったんだよ……訳わかんねぇ」
「んー……俺にもよく分からん」
「はぁ? 自分の事じゃねぇか!」
「いや、俺神様じゃねぇし。タダの幽霊よ?」
軽い物言いに段々慣れて来たが、やはりため息が出てしまう。
そう言われたらそこまでだが、納得は行かない。
「……なんか、未練があったとか?」
ネットで入れた知識だ。 生前強い思いを残して亡くなると、地縛霊として現世に留まると言う話を目にした。
「んー……ある様な、無いような? どうなんだろうな? あー……でも、分かる事はあるぜ?」
「は? 何?」
進展しそうな内容に、晴矢に詰め寄る。
「ひとつめ、伊月の体にしか入れない。ふたつめ、俺はこの土地から動けない。後……今年分かった事がみっつめ、お盆の期間しか入れないって事だな」
「うーん……」
何の話を聞かされているんだ、と言う気持ちにはなるが、まだ指を折り数えている事も気になる。
「……まだあんの? 幽霊ルール」
「んー……言っても殴んなよ?」
「……はぁ? なんなんだよ、殴らねぇよ」
晴矢が両手首をがっしりと掴んで来た。
話しぶりから、俺に関係する事なんだろうとは予想出来るがーー悪い事なのだろうか。
「アイツに入るのは簡単だ、ちょっと触れたら入れちまうし、出るのも俺の意思で出られるって話しなんだが……ちょっと、去年やらかしてしまってな……まぁ、その尻拭いで今日お前に会いに来たんだけど……自分のケツは自分で拭けって言われちまったしな……」
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