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第30話

話を聞かされた夜、確かにそうは言ったがそれは伊月に対して言った事だったし、なんとも歯切れの悪い喋り方に言いたい事が読み取れない。 「やらかしたって、何……?」 「……アイツが言った通りなんだけどよ……すまん! お前とヤッたの全部、俺」 大袈裟に頭を下げる姿が、少し不憫に感じた。 言われるまで、その話を忘れていた事に気付かされるーー俺にとっては、その程度の内容だからだ。 「別に、気にしてねぇよ……童貞でもねぇし」 俺の初めての男は春臣だーーしかし、女を知らない訳では無い。 セフレという選択肢を得てからは、定期的に致していたのは事実でーー。 そんな俺に、あれこれ言う権利は無いだろう。 「いや……アイツが話したときめっちゃキレてたよな?」 予想した答えじゃなかったのか、晴矢の力が緩んだ。 「あれは……なんか、ムカついて……訳わかんねぇ事ばっか言うし、言い訳に聞こえたんだよ……ホントは俺とした事、後悔してんじゃねぇのかって……」 話が飛躍しているように思うが、その時はそう思ってしまったのだ。 いつも頭の片隅にちらつく別れのシナリオを、伊月の話と勝手に紐付けてしまったーーあの時は訳が分からず、冷静じゃなかったとしか言い様がない。 「……だから、そこは気にしなくていい」 俺が言い終わると、黙って聞いていた晴矢の口が動いた。 「ーーなんか、意外だな? 好きな奴以外となんてヤダぁー! とか泣き喚くと思った」 思わず失笑してしまったーー晴矢にではなく、自分にだ。 「……女じゃねぇんだから、んな事言うか。俺も他のやつとヤッてるし……気にしねぇよ」 余計な事を言ってしまったかもしれない。 だが、晴矢の目にはそんな女々しく写っているのかと思ったら、情けなく感じたーー同じ男として。 また餓鬼臭い所が出たが、少しくらいの強がりは許して欲しい。

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