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第31話
「……その話、伊月にしてねぇよな?」
トーンの下がった声につられ、晴矢の方に目をやった。
これまでのギャップもあり、似合わない真面目な顔に吹き出してしまった。
「ーーするかよ、いちいちどこの女と寝たって? アホらしー……」
「マジで言ってんだよ……絶対言うなよ」
「しつけーな、言わねぇって……てか、晴矢さんとヤッてから他とはしてねーし」
操を立てていた、と言う程大それた話ではないが、何となく罪悪感や後ろめたさがあったのかも知れない。自然とそういう相手は遠ざけるようになった。
自分がゲイだとバレないよう、カモフラージュの為にしていた事だがーーそんな卑屈な理由など、聞かせる事なんて出来なかったし、言うつもりもなかった。
しかし、売り言葉に買い言葉、とでも言うのかーー今の晴矢の顔を見ていると、考え無しに言った事を少しだけ後悔した。
「なら、いい……アイツは俺と違って潔癖だからな……だから、こんなめんどくせぇ事になってんだけど」
「……どういう意味?」
「分かんねぇか? 俺がお前をヤッちまって拗ねてんだよ」
分かるようで分からない、晴矢の言葉に違和感を覚え、なんだかもやもやしてくる。
「いや……おかしくね? そもそも俺はお前らの事情なんか知らなかったじゃん? 晴矢さんとしたとしても、伊月さんとヤッてたと思ってたし……いや、晴矢さんだと思ってたけど、本体を見てたわけで……あーもう! ややこしいな!」
また混乱してしまいそうで頭を抱えた俺を、宥めるように晴矢は背中を軽く叩いて来た。
「……アイツもそれは分かってる……でもな、頭で分かってても気持ちが追いつかねぇって事もあんだろ」
晴矢の言いたい事は分かる気がするし、身に覚えがあり過ぎて否定は出来ない。
だがーー。
「……なんだそれ、ガキくせぇなーーっ!」
不意に横腹を抓られ、身体が跳ねる。
文句を言う暇も無く、晴矢が話し始めた。
「悩みに大人も子どもも関係ねぇだろ……まぁアイツはウジウジし過ぎな気もすっけどーーてか、今回は俺が原因なんだけどな」
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