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第32話

真面目に話していると思ったらすぐこれだ。 大口を開けて下品に笑う姿に、呆れてものも言えない。 本日何度目か分からないため息を出し、一応話しを続けてみた。 「……なんで晴矢さんのせいなんだよ。ムカつくってのも分かるけど……さっさとホントの事言わなかったアイツも自業自得じゃねぇか……」 自分なりに状況を整理しながら話していると、ふとひとつの疑問が浮かんできた。 「なぁ……初めてココで会ったのって晴矢さんって言ってたよな? なんで……伊月って名乗らなかったんだ?」 盲点だったーー情報が多すぎて見逃していたが、始めから歯車が狂っていたのは明白だ。 そこさえ合っていれば、ここまで噛み合わない事は無かったかも知れない。 少しだけ目が泳いだ晴矢を見ると、何か意味深で妙に勘ぐってしまう。 「あー……すまん、つい……」 「ついって……?」 変な間になんだかこちらが緊張してしまう。 恐る恐る、晴矢の顔を覗き込んで促す。 「……だから、つい出ちまったんだよ……自分の名前が……ほら、人様の体に入るなんか初めてだったしよ……普通に名乗っちまった」 本日、いや人生で一番長いため息が出た。まさかの間抜けな回答にに呆れてものも言えない。いや、緊張して損をされられた分、言わせてもらう。 「ーーバカじゃねーの?」 「酷でぇな! 仕方ねぇだろ、そんなすぐに対応出来ねぇわ」 「……どの口が言ってんだよ。ちゃっかり入れ替わって俺とヤッてたくせによ」 話せば話すほど、目の前の男は別人であると思い知らされる。 完全に気が抜けた俺は、いつの間にか笑いが込み上げて来た。 「ーーあれは、アイツがもたついてたから発破かけてやろうかと思ったし、紀智が……」 岩に寝転んだ体制からは、晴矢の表情が読み取れない。 また変な間が空くが、今度は騙されない。 「……俺がなんだよ」 俺の方を振り返った晴矢は悪戯っぽい笑みを見せたーー予想通りである。 「可愛かったから、つい……な?」 「はっ! チャラ過ぎんだろ」 脚で小突くと、晴矢は声を出して笑った。 場所が場所なだけに、なんだか出会った時の事を思い出す光景で、自然と俺も笑ってしまう。 やはり俺は単純らしいーーいや、深く考えるのは性にあわないのかも知れない。 明日は、自分から伊月に会いに行こうと決心がついた。

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