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第42話
今の、今まで頭の何処かでは『晴矢』ならそんな事はしないーー無理矢理なんて、出来るはずは無いと思っていた。
しかし、目の前の晴矢はどう見ても本気に見え、自身の奢りに冷や汗が出た。
「やーーやめよう、ぜ? 気分、じゃねぇって……なあーーっ! やだ、やめ……ろ……」
俺の制止を無視し、膝裏を押し上げ強制的に脚を開かされる。流れるように腰を浮かされ、膝が顔の横に来るぐらい抑えつけられると、嫌でも晒された恥部に目がいったーー。
晴矢の竿が入口をゆっくりと擦り、俺に見せ付けてくるようだったーーこれが、侵入してくるのも恐らく、もうすぐの事だろう。
そう悟ると、血の気が引いて行った。
「ーーはる、やさん……っ、やめ、て……」
いつの間にか涙が零れ出していた。
この体勢もキツイが、何より胸が苦しいくて痛くて、耐えられなかった。
「ーーあーっ! もう、泣くなって……」
あらゆる拘束は直ぐに解かれ、震える身体を晴矢に抱きしめられる。
嗚咽の止まらない俺を、宥めるように優しく背中を擦りながら、溜息をついた。
「……すまん、やり過ぎた……こうでも、しねぇと納得しねぇと思って……」
「……なっ、にが……?」
震える喉から、声を絞り出した。
「俺と、伊月は別モンだって事……俺がアイツのフリしてたから、よく分かんねぇようになってただけで、ベースは全部伊月なんだよ……シンプルに考えれば分かる事だろ? お前が見てたのは偽物の『晴矢』で俺自身じゃねぇんだよ……でも、伊月は名前が俺だっただけで、本質はお前の見ていた『晴矢』なんだよ」
「…………」
なんの根拠もなく、伊月の事が好きだったと思えていたのは、こう言う事だったのかと、晴矢の言葉で納得出来た気がするーーが、だからと言って伊月が抱えていた葛藤が、間違っていたものとも思えない。
確かに、違和感を持たせないくらい、伊月のフリをするのが上手かったのは事実である。しかし、そんな簡単に、しかも完璧に演じられるものなのかーー。
そう思うと、全て作り物だったのかも怪しいものでーー偽物の『晴矢』を否定する事が出来ない。
多分、伊月も同じ事を考えたからこそ『どっちが好きか』なんて言い方になったんだと思う。
「……納得いかねぇか? じゃあ、もっとシンプルに行こうぜ? どっちも好きってんならそれでもいい。俺がごちゃごちゃ言った所で、決めるのはお前自身だからな……でもな、死人の俺とどうなりたいんだ? デートでも、セックスでもするか? 伊月の身体借りてさ」
全く力が入らなかったのが、嘘のように動いた。目線の合った晴矢は、優しく微笑んで見せ話しを続けた。
「俺はもう、この世に居ないんだぜ? 言いたい事……分かるよな?」
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