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第44話
予告はした、伊月には申し訳ないが次は本気で行かせてもらう。
そう意気込みながら、冷房のボタンを押し流れ出る冷気を直接浴びクールダウンを試みた。
「ーーアイツ、ここ売る気だ……てか、もう買い手も決まって話し進んでるみたいだぜ?」
「え……?」
声が裏返ってしまった。
自分が思っていた以上に、離れると言った伊月は本気で準備をしていたらしいーー。
だがーー。
「ーー別に、この家がなくたってこっちには来んだろ? 骨埋めに来たって……晴矢さんのお墓、あんだろ? 墓参りくらいするだろうし、会えんじゃね?」
「んー……墓はこっちにはねぇんだよ……そういや、その話してなかったな……こっちにあるのは俺の骨、半分。川に流して貰ったんだわ」
「は? どゆこと……?」
新しい情報に思わず晴矢の方に目をやると、だらし無く垂れた局部を下着にしまっている最中だった。
何とも言えない間抜けな姿に、細い緊張の糸など容易く切れてしまいそうだ。
「遺灰をな、半分。ホントは全部やって欲しかったけどな……まあ、揉めたみたいでさ、とりあえず半分って事になったらしいけど」
自分の事なのに、第三者のようにあっけらかんと話す晴矢は、拾いに行ったシャツを着ながら、扉付近にある小さめの冷蔵庫を開けた。
「……こっちに、なんか思い入れ? とかがあんの?」
渡されたミネラルウォーターを受け取ると、何となく疑問に思った事を聞いてみた。
「んー? 特に、ねぇな? この家の内見に来た時、何となーくそんな事思ってアイツに話しただけなんだけどな? 律儀だよな?」
何か、分かるのではないかと少し期待していた自分が馬鹿みたいだ。
ひとり笑う晴矢に溜息をつき、水を飲むーー一気に半分以上流し込み、喉がカラカラだった事に気付かされた。
「……てかさ、なんで伊月さんにこの家買ったんだ? 売るってくらいだし……ずっと住む気は無かったんだよな?」
「んー……そうだな……こっちこい」
ベットの端に座っていた晴矢が、隣を叩き呼んでくるーーが、先程された事を思うと眉間に力が入るし、直ぐに従う事が出来ない。
「なんもしねぇって……真面目な話しだからこっち来いって」
「……どの口が言ってんだ」
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