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第48話

穏やかな表情が、心を揺さぶりここ3日間の晴矢との記憶を思い出させた。 俺の『晴矢』像を、粉々に壊す程別人でーーだからこそ、そんな晴矢に助けられた。 からかわれてばかりで、腹が立つ事もあったが、それはそれで楽しんでいた自分がいたのも確かだ。 そんなやり取りも、今日が最後かも知れない。そう思うと、胸をギュッと締め付けてくる。 「……他になんか言う事ねぇのかよ……」 多分、晴矢とはもう会えない。 昨日、帰った後この可能性が高い事に気が付いた。 伊月がこの家を手放すと言う事は、もうこちらには来る気は無いのだろうーー。 そうなれば、ここでしか、伊月の身体にしか憑依出来ない晴矢にも、会うことは難しくなるのは明白だ。 そうでなくても、幽霊なんて不確かな存在だ、いつ消えてもおかしくないーー。 「んー……キスする?」 「……なんで、そうなんだよ。アホか」 「いや、めっちゃ見つめて来るからキス待ちかって思うだろ?」 「……また、それか……んなわけねぇだろ」 こんな時でも、いつも通りの雰囲気で、空気を一変させれる晴矢は凄いと思う。 自然と笑っていた俺に、晴矢も笑みを返してくれた。 「……紀智、お前はまだガキだ。だからなもっと自由に生きていいんだぜ? 周りにどう思われようとな、関係ねぇんだよ。もっと好き勝手にやってみろ……それで失敗してもいいんだよ。そっからどうするかって事に頭使え……分かったか?」 なに真面目な事言ってんだーー普段の俺ならそう突っかかっている所だろうが、不思議と今回の言葉は素直に受け入れられた。 黙って頷くだけの俺に、晴矢も優しく微笑むだけで、特に茶々を入れては来なかった。 こんなしんみりした、らしくない感じで晴矢を行かせてしまうのかーー晴矢なら、どうするそう考えると自ずと身体が動いていた。 「ーー晴矢さん、ありがとう」 そっと晴矢にキスをした。 ゆっくりと離れながら見えた晴矢の表情が、少し驚い顔をしていてーー自分から仕掛けたのに恥ずかしくなり、顔が火照ってくる。 「……い、伊月さんには言うなよ」 固まっていた晴矢が、声を出して笑った。 限界まで細くなった目に、大きく開いた口、下品な笑い方だと思っていたのに、今回ばかりはこの笑顔が見たかった。 つられて笑う俺の背中を、また膝で小突いてくる。 「ーー墓場まで、持ってく。紀智…………伊月と仲良くしろよ」

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