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第49話

頷いた俺の事は見えているだろうかーー感傷に浸りそうになるが、俺にそんな時間はない。 見る見るうちに、目の前で変わっていく表情に、俺の気持ちも切り替わって行った。 「ーー……紀智? なにーーっ!」 自身が縛られている事に気付いた伊月は、状況を確認しようとしているのか、忙しなく首を動かし周りを見ている。 「ごめん、伊月さんと話したくて晴矢さんに協力して貰った……ちゃんと、聞いて欲しいから……このままでいい?」 「……分かった」 ため息を付いた伊月は、理解してくれたのか腕の力を抜き、こちらを真っ直ぐ見てきた。 昨日と同様、無機質な瞳に飲まれてしまいそうになるーー自身の頬を両手首で叩き、鼓舞する。 「ーー俺は、伊月さんが好きだ。どこが好きって聞かれたらめっちゃ言えるぜ ……でも、そんなんじゃ伊月さんぜってぇ納得しないだろ? だからさ、自分で確かめてよ……抱いてくんね?」 驚き丸くなった目に、やっと色が戻って来たような気がするーーそっと、伊月の頬に手を当てると首を傾け、横を向いてしまった。 「……何でそうなるんだ……ダメだ、それに俺はーー」 「ゲイじゃねぇって? じゃあ、ゲイだっつった俺は、女ともヤレるけどそうじゃねぇって伊月さんは言うのか? てかさ……基準てなんなの? 誰が決めた事なの?」 「……っ、それは……」 途中で口を閉じた伊月の顔を、両手首で挟み込みこちらを向かせた。 「ゲイとかバイとか、ノンケだとか……どうでも良くね? 俺もそうだったけど……そんな事いつまでも言ってるから、訳わかんねぇんだよ。俺は、伊月さんが好き……『晴矢』さんじゃなくて、伊月さんが好きだ。これじゃ、ダメなの……?」 始終あった眉間の皺がとれ、ゆっくりと目を閉じた伊月は、手のひらに頬擦りをしてきた。 「……ダメじゃない」 こちらに視線をくれた伊月は、いつもみたいな穏やかな笑顔でーー俺を包んでくれるようだった。 自然に心が暖まり、何か込み上げて来そうで声を出すことが出来ないーー。 「……紀智、コレ外して? このままじゃ、抱きしめられない」 縛った手を動かしながら、苦笑いを浮かべた伊月に、躊躇なく自ら飛び込んだ。 やっと感じられた伊月の体温が心地よく、懐かしいーー。 このまま、余韻に浸っていたいが、とりあえず必要の無くなった枷を解くことを優先した。 いや、とりあえずではない。直球な伊月の言葉に期待し、早く実行して欲しかっただけだ。

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