53 / 61

第53話

ここはこんなに淋しい場所だっただろうか。 お気に入りの2階の籠椅子に、膝を抱え座りふと、そう思った。 目の前の窓枠から見える外は、薄暗く景色を楽しめたものでは無い。 ゆっくりと目を閉じ、家の前の道路を走る車の音に耳を澄ますーー徐々に遠くなって行くそれを聞きながら、着ていた借り物のTシャツの裾を握りしめたーー。 『ーーきいちゃーん』 祖母が下から俺を呼んでいる。 ーー……なんか、違……。 「ーー………」 「ーーいちゃーん……あっ! 起きた」 「あ、ほんまや。おはよぉ?」 微睡みの中俺の顔を覗き込む、2つの顔に無意識で溜め息が出た。 頬をつつく不快な手を払い除け、横になっていたソファから起き上がる。 「……うるさい……何してんの? 実家帰ったんじゃねぇのかよ……」 綺麗に整えられた爪によって、違和感のある頬を撫でながら、腹から落ちた文庫本を拾う。 目の前に移動してきたうるさい顔を見ると、また溜め息が漏れた。 「帰ったで? でも、実家わりと近くやしもういいかなぁって? いつでも帰れるしなぁ? ユキちゃんも家近所やねん、なあ?」 「うん。てか、きぃちゃん洗濯終わってんで」 「あ? あー……忘れてた……」 そう言えばそうだった。 洗濯物を回してる間、共有スペースで本を読んでいたらそのまま寝てしまっていた様だ。 ーー……最近、頻度やべぇな……。 こちらに来て4ヶ月、大学の授業や慣れない寮生活に毎日慌ただしく過していたが、あの日を忘れる事は1日も無かった。 未練がましく、度々見る同じ夢のせいで寝不足でーー身体的にもキツいし、精神の方も削られる。 世間はお盆休みにも関わらず、寮で一人寂しく過ごしていたのも、現実をまだ受け入れられないからだ。 相変わらず女々しい所は、変わらないようだが、そんな俺にも多少変化があった部分もあるわけでーー。 「ーーきいちゃーん? 全然話し聞いてないやろ? まだ眠いん?」 「…………なに?」 考え事をしている最中に、両手に花の状態になっていた。 花と言ってもラフレシアだが。 「佐藤さんがなぁ昼ごはんあるから、食べてって」 「……寮母さん、お盆は居ないって言って無かった?」 「きいちゃん1人だけやし、心配やったんちゃう? 知らんけど」 「佐藤さんのお気に入りやしな? ほんまイケメン得やわ」

ともだちにシェアしよう!