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第53話
ここはこんなに淋しい場所だっただろうか。
お気に入りの2階の籠椅子に、膝を抱え座りふと、そう思った。
目の前の窓枠から見える外は、薄暗く景色を楽しめたものでは無い。
ゆっくりと目を閉じ、家の前の道路を走る車の音に耳を澄ますーー徐々に遠くなって行くそれを聞きながら、着ていた借り物のTシャツの裾を握りしめたーー。
『ーーきいちゃーん』
祖母が下から俺を呼んでいる。
ーー……なんか、違……。
「ーー………」
「ーーいちゃーん……あっ! 起きた」
「あ、ほんまや。おはよぉ?」
微睡みの中俺の顔を覗き込む、2つの顔に無意識で溜め息が出た。
頬をつつく不快な手を払い除け、横になっていたソファから起き上がる。
「……うるさい……何してんの? 実家帰ったんじゃねぇのかよ……」
綺麗に整えられた爪によって、違和感のある頬を撫でながら、腹から落ちた文庫本を拾う。
目の前に移動してきたうるさい顔を見ると、また溜め息が漏れた。
「帰ったで? でも、実家わりと近くやしもういいかなぁって? いつでも帰れるしなぁ? ユキちゃんも家近所やねん、なあ?」
「うん。てか、きぃちゃん洗濯終わってんで」
「あ? あー……忘れてた……」
そう言えばそうだった。
洗濯物を回してる間、共有スペースで本を読んでいたらそのまま寝てしまっていた様だ。
ーー……最近、頻度やべぇな……。
こちらに来て4ヶ月、大学の授業や慣れない寮生活に毎日慌ただしく過していたが、あの日を忘れる事は1日も無かった。
未練がましく、度々見る同じ夢のせいで寝不足でーー身体的にもキツいし、精神の方も削られる。
世間はお盆休みにも関わらず、寮で一人寂しく過ごしていたのも、現実をまだ受け入れられないからだ。
相変わらず女々しい所は、変わらないようだが、そんな俺にも多少変化があった部分もあるわけでーー。
「ーーきいちゃーん? 全然話し聞いてないやろ? まだ眠いん?」
「…………なに?」
考え事をしている最中に、両手に花の状態になっていた。
花と言ってもラフレシアだが。
「佐藤さんがなぁ昼ごはんあるから、食べてって」
「……寮母さん、お盆は居ないって言って無かった?」
「きいちゃん1人だけやし、心配やったんちゃう? 知らんけど」
「佐藤さんのお気に入りやしな? ほんまイケメン得やわ」
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