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第54話
俺そっちのけで会話を繰り広げるのはいつもの事で、もう慣れっ子だ。
前の俺なら絶対に有り得ない事だが、こいつらは俺の友人である。
晴矢に言われた通り、自由にやろうと思い、自身をさらけ出した結果、以前より生きやすいと言うのかーー気持ちが軽くなり、物事をねじ曲げて見る事は少なくなった。
友人たちと、自然体で笑えている今があるのも、晴矢に出会わなければ一生無かったもしれない。
「てかさ、いつまでフリーなん? 勿体なさすぎ、ウチとはよ付き合お?」
「いやいや、無理やろ。きいちゃんゲイやん。てか、諦め悪すぎな」
「だって、自称やろ? この前クラブでナンパされてたけど、断ってたし」
「いや、あれ完全ヤリモクやったやん……無理やろ」
「でも男前やったやん? 良くね?」
「まぁ、確かにな?」
聞き流そうと思ったが、両側からの無言の圧に押され、早々に屈してしまった。
「……好きな奴としか、したくねぇんだよ」
性癖について今は隠していないが、なぜこんなナチュラルに恋バナをしているのかと、時々不思議に思う事がある。
話したときもそうだった。多少色物扱いをされる事もあるが、特に大きく変わったと言う事はなく拍子抜けしたのを覚えている。たまたま環境が良かった、と言うのもあるかも知れないが、俺の見ていた世界は狭かったんだなあ、と思い知った内のひとつだ。
ひとつ訂正するなら、話したと言うよりは、つい口走ったと言ったほうが正しいーー予想通り、空振りに終わった約束のせいであるーー。
ーー……どうすれば、正解だった?
気を抜くと、すぐに考えてしまう邪念を振り払い、立ち上がった。
「え! なに? ぶんぶん頭ふって……怖いんやけど」
「童貞じゃないって言いたいんやない? 必死すぎて逆に肯定やろ、それ」
「その顔で童貞とかウケるわ」
好き勝手言われ、ため息しか出てこない。
やけくそになって、話してしまった事を少しだけ後悔し、その場を去ろうとしたが、後ろから呼び止められた。
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