54 / 61

第54話

俺そっちのけで会話を繰り広げるのはいつもの事で、もう慣れっ子だ。 前の俺なら絶対に有り得ない事だが、こいつらは俺の友人である。 晴矢に言われた通り、自由にやろうと思い、自身をさらけ出した結果、以前より生きやすいと言うのかーー気持ちが軽くなり、物事をねじ曲げて見る事は少なくなった。 友人たちと、自然体で笑えている今があるのも、晴矢に出会わなければ一生無かったもしれない。 「てかさ、いつまでフリーなん? 勿体なさすぎ、ウチとはよ付き合お?」 「いやいや、無理やろ。きいちゃんゲイやん。てか、諦め悪すぎな」 「だって、自称やろ? この前クラブでナンパされてたけど、断ってたし」 「いや、あれ完全ヤリモクやったやん……無理やろ」 「でも男前やったやん? 良くね?」 「まぁ、確かにな?」 聞き流そうと思ったが、両側からの無言の圧に押され、早々に屈してしまった。 「……好きな奴としか、したくねぇんだよ」 性癖について今は隠していないが、なぜこんなナチュラルに恋バナをしているのかと、時々不思議に思う事がある。 話したときもそうだった。多少色物扱いをされる事もあるが、特に大きく変わったと言う事はなく拍子抜けしたのを覚えている。たまたま環境が良かった、と言うのもあるかも知れないが、俺の見ていた世界は狭かったんだなあ、と思い知った内のひとつだ。 ひとつ訂正するなら、話したと言うよりは、つい口走ったと言ったほうが正しいーー予想通り、空振りに終わった約束のせいであるーー。 ーー……どうすれば、正解だった? 気を抜くと、すぐに考えてしまう邪念を振り払い、立ち上がった。 「え! なに? ぶんぶん頭ふって……怖いんやけど」 「童貞じゃないって言いたいんやない? 必死すぎて逆に肯定やろ、それ」 「その顔で童貞とかウケるわ」 好き勝手言われ、ため息しか出てこない。 やけくそになって、話してしまった事を少しだけ後悔し、その場を去ろうとしたが、後ろから呼び止められた。

ともだちにシェアしよう!