55 / 61
第55話
「きいちゃん! 夜さご飯食べいこ? 佐藤さんおらんし、どうせコンビニやろ?」
やっと本題に入ったのか、と呆れはするが確認しておかないといけない事もあるのて、答えなければならない。
「いいけど……2人で?」
「いや、4人。ユキちゃんと後でよーくんも来れるって……あ、2人が良かった? ウチは全然ええで?」
「いや、したらユキ、よーくんと2人で行かなあかんやん。嫌やし」
「えー? よーくんかわいそ。めっちゃユキちゃん好きやん? イケメンやし、とりあえず一発ヤッてみたらええやん?」
「まぁ……確かにな?」
完全に俺は蚊帳の外だが、いい加減面倒くさくなってきたので、好都合だ。
低劣な話で盛り上がる2人に、気付かれぬ様忍のようにそっと足を進め、その場を脱出した。
とりあえず、放置していた洗濯物を回収しにランドリールームに来たが、のんびり畳む気になれず、無造作にカゴへと投げ込んだ。
「ーー……っ! クソ」
カゴを飛び越していった洗濯物に腹が立ち、舌打ちしてしまうーー床に落ちたTシャツを手に取ると、ハッと我に返った。
何となく、2人の話が頭から離れずもやもやし、物に当たっていたがーー気付いてしまうとそれはそれで、難儀である。
ーーあのくらいガツガツ行った方が、良かったのか?
何だか笑えてきた。
些細な会話でさえ過敏に反応し、勝手に紐付けては過去を頭の中で修正しているーー。そして結局、無意味な事をしていると気付き、虚しい現実を突きつけられるだげだ。
自分でも馬鹿みたいに思うが、ガキだからしょうがない。たった数ヶ月で無かった事に出来る訳ないーー。
そう思える様になったのは最近の事だが、折り合いさえ付けてしまえば、面倒くさいこの気持ちと付き合うのは、意外と簡単だ。
今はこれでいい。いつか忘れられるーー。
ーー……アホくせぇ……。
握り締めたTシャツが本心を現しているようで、また心をざわつかせてくる。
「ーー伊月さん……」
無意識で声に出ていた事に驚き、急いでTシャツをカゴに押し込み、逃げるように食堂へと足を進めた。
ともだちにシェアしよう!