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第59話

ふつふつと湧き上がってくる怒りで、顔が引き攣ってしまう。 あんなに俺たちをくっつけようとしていた癖に、何故こんなしょうもない嘘をつくのか理解できないーー。 ーー面白そうだから? 晴矢の言いそうな答えを想像し、また腹が立ち、目の前の伊月と重ねてしまいそうでーー今にもこの、綺麗な顔を殴ってしまいそうだ。 「ーー……紀智?」 怒りで震える拳を伊月が包み込み、心配そうに顔を覗き込んでくる。 そうだ、目の前にいるのは晴矢ではない。伊月だーーそして、伊月も晴矢に騙されていた被害者なのだ。 まずは、見つけ出してくれた事に感謝を述べなくてはならないーー。 しかし、新たな疑問も浮かんでくる。 「ーー……でもさ、よく気付いたよな? 凄くね? 兄弟だから?」 「俺も最初は気づかなかったよ……ただ、こっちに来なかっただけだと思った……紀智の気持ちが変わったんだろうってな」 哀しそうに笑った顔に、自身まで何だか切なくなり伊月の手を握り返す事しか出来なかった。 「……ミチさんの所まで行って聞いてみようか……そう思ったが、自分勝手過ぎて出来なかった……でも、やっぱり諦めきれなかったんだよな……ずっと紀智の事を考えてた。そしたら気付いたよ、紀智に教えたのは晴矢だって事にな?」 伊月の表情が徐々に柔らかくなっていく。繋がった手を解かれ、今度は指を絡めるように結び直してきた。 「……今日、それに気付いて来たんだが、今お盆だろ? 誰もいなくてさ……途方に暮れてた時に偶然佐藤さんに会ったんだよ。そしたら、キャンパス内にある寮に勤めてるって言うし、今その寮に紀智がいるって聞いて……頼み込んだよ」 自分でもよく分からない感情が身体を動かし、伊月に口付けていた。 ゆっくりと離れながら我に返ると、急に恥ずかしくなり顔を逸らしてしまった。 「ーー……っ……で、でもさ? なんでこんな嘘ついたんだよな? 意味わかんねぇー」 照れ隠しでとりあえず喋ったが、早口過ぎて焦ってしまっているのはバレバレだろう。 「……俺は、分かる気がする」 「……なんで? 意味わかんねぇって」 ちらりと伊月を目だけで見ると、菩薩の様な笑顔がそこにあった。 「……兄弟、だから……かな?」

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