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1の5 かいほう

 大きな石造りの屋根が邪魔をしていて、壁のない神殿は柱の3列目を過ぎた辺りから薄暗くなった。  振り返っても太陽の光が強すぎて景色が白一色に塗りつぶれている。  薄暗い場所で同じくらいの暗さの場所を見るのには不都合もないから、そこにあるものはちゃんと判別できる。  けれど、吹きっさらしに千年も置かれていたとは思えない綺麗さに、少し戸惑ってしまう。  毛糸がフワフワとした毛足の長い絨毯とその上に鎮座する茶色い素焼きの壺が2つ、僕の目の前にあるのはそれだけだった。  壺には板を何枚か並べて貼り合わせて作られた蓋が乗っているだけだった。  シールがついているわけでも紐で括られているわけでもない。誰かがここに来たら簡単に開けられるだろうと思う。  思うから、僕はそれを実践することにした。これを開けるために来たのだから躊躇もない。  まずは、右側の壺。確かに大きくて、僕では蓋を持ち上げるのも難しい。だから、乗っているだけの蓋を向こう側に押して落とすことにしたんだ。  ちょうど僕の胸の高さに蓋があるから、押し開ければ中が覗ける。  けど、完全に蓋を向こうに落としてゴトンバタンと音を聞きながら、僕は首を傾げる。 「……空っぽ?」  蓋を開けても何も起きなかった。  バンと破裂したりもわっと煙が出たり、そんなことを警戒してたんだけど。  ともかくもうひとつも開けようと隣に1歩動いた時だった。  ふわっと周りの空気が持ち上がったように感じて立ち止まった僕は、何か見えないモノに身体を触られている感覚を得る。  最初は肩。動きかけを立ち止まった不自然な姿勢で不安定になっている腰。むしろ身動きが取れないように固定されたのかもしれない。  それから、胸の飾りを擽られる。お店でもたくさん弄られていたおかげで、僕の胸は男のくせにとても敏感なんだ。  それでようやく、見えない相手の正体と意図が分かる。  空っぽに見えたのはただ僕の目に見えなかっただけで、解放したかった神様の荒ぶる力が外に出て僕が預かった核を目指してるんだ。  それも、多分風の神様の方。  だって、神様たちが説明していたではないか。実体のないモノだからじっとしていれば傷つけられることはない、って。 「風月さま、待って。もひとつ開けさせて」  実体がないからこそ肉体の枷に縛られることもなくて、胸を弄りながら前も後ろも揉みほぐそうとする風の神様の荒ぶる力に、僕は制止を懇願する。どちらかだけ封印を解いても意味がないなら、一度に片付けたい。  イタズラな手は止めてくれないけれど身体を固定されていたのは緩めてくれたので、刺激されるのが気持ちよくて手に力が入らないのを何とか動かしてもうひとつの蓋を押し開ける。  こちらの壺には雨の神様の荒ぶる力がいるのだろうと思っていたけど、まさしくその通りだったようだ。さっきと違ってもわっと濃い湿気が湧いて、中から何か出てきたのを実感する。  僕が立っていられたのはそこまで。  絨毯の上にペタリと膝をついて、身体も起こしてられなくて両手ついて四つん這いになって、腕の力なんてないから床に肩をついた。  このポーズは、ケモノのポーズとか言ってお客さんたちが喜んだのと同じで、なんだか神様たちも喜んだみたいにさっきよりたくさん絡み付いてきた。  いや、それは相手がひとり増えたからか。  魔物の身体の神様と比べたらスゴくエッチに積極的な荒ぶる力に、僕の身体は翻弄されていく。  前から知っていた胸の刺激も今日初めて知った性器の気持ちよさも、後ろを暴かれる痛くてくすぐったい感じも。  僕の中で暴れまわって思考が溶けていく。 『痛むか』 『苦しいか』 『すまぬな』 『もう少しだ』 「ああああぁぁっっ!!」  パチンパチンと頭の中で光が弾けていた。  ような気がする。

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