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第9話

 「だからさぁ、何で親のデートに娘が付いて行かなきゃいけないのよ、前にも言ったでしょ!」  いや、デートのつもりじゃなくって、ここの所色々あり過ぎて、気分転換に街で買い物でもと思ったんですが、すいません。  そういえば蓮とデートらしいデートをしていなかった。ベッド買いに行ったくらいか。  それじゃ、華のお心遣いに甘えて蓮と2人で行く事にしよう。蓮にメールしたら直ぐに返信。お前の仕事って自由過ぎないか?  蓮の愛車で市街地へ。いやぁ目立つ。信号で止まる度、視線を感じる。フェラーリの真っ赤なスポーツカー。蓮の身体には小さい気がするが、小さい物が好きだからか?因みに俺の愛車は、軽の中古車。いいじゃないか、小回りも利くし、4人乗れる。スポーツカーのバックシートなんてお飾りだろ?  クリスマスに浮かれた人々が、繰り出す日曜日。平日にすりゃ良かったかな。凄い人出だ。  天気が良くても12月。寒さに弱い俺は完全防備。顔も半分マフラーに埋まってる。  「そんなに、寒いなら無理して外出しなくても良いのに。」  いや、俺が出たかった。だってクリスマスでしょ?蓮にプレゼント買いたかったんだ。高い物は買えないけど。一緒に選んだりしたら楽しいじゃないか。  俺が楽しいのが伝わって蓮も安心したみたいだ。  アーケード街に入ると寒さも和らいだ。マフラーも外して、街ブラする。に、しても。視線を感じるなぁ。確かに蓮は高身長だし、イケメンで体格も良い。通りすがる女性達が、チラ見していく。俺だってそんなにチビではないが、10cm違うとこうも反応が違うのか。多少凹む。  「何処か、ひと息つこう。」  うん?蓮、人混み苦手なのかな?  女神的なキャラがアイコンのコーヒーショップへ。ここは、甘いドリンクが充実しているから大好きだ。スィーツも結構あるし。  蓮がなんだか不機嫌だ。コーヒー飲みながら周りに近づくなオーラを出している。  「どうしたの?人混み苦手?」  蓮は、大きな溜息をつく。  「凛、気がついてないの?マジかよ...」  「何がだよ。蓮がチラチラ見られてるのは気がついてるよ。」  「はぁ?俺じゃねーよ。凛だよ。凛目当てに数人付いて来てた。」  「え?何で?俺なの?」  「....歩き方、変えても付いて来てたから、店に入ったんだよ。」  そういや、ジグザグに歩いたり、立ち止まったりしてた。  だけど何でオマケ的な俺なの?蓮自身に付いて来たんじゃないのか?  理解出来てない俺に。  「じゃぁさ、試しに向かいのCDショップ、1人で行ってきて?」  「うん、分かった。」  蓮を残して、店をでて言われた通りに行ってみた。周りに注意しながら。  あれ?何か気配がする。何気に振り向くと男性が、何人か立ち止まっている。  ま、まさかね。CDショップに入ると....やっぱり立ち止まってた男性達が後に続いて入店して来た。一通り店内を歩くと少し距離を置いてついてくる。何だか怖くなって立ち尽くしていたら、ついて来た1人が、俺の後ろを通り過ぎるタイミングで.........尻を撫でて行った。  ち・痴漢?冷や汗が出てきた。同じ男に触られただけなのに。髪が少し長いから女と間違えたのか?確かに俺には男臭さってのが無い。顔付きも母親似で女顔かも知れないけれど。それに付き合ってる相手も男だけど訳が違う。痴漢ってこんなに怖いのか。身体が動かない。顔も熱い。  残っている男共の視線も痛い位に感じる。帰りが遅くなったからか、蓮が店に入ってきて固まってる俺を見つけた。  「...付いてきたの分かった?....どうかしたの?」  「.....ケツ、触られた.......」  「ハァ?マジで?誰だ!どいつだ!」  蓮がキレた。ヤバイ。変身してしまう。  「蓮、落ち着け!俺大丈夫だから!ディウォーカーになるぞ!」  出来るだけ小声で、落ち着いて蓮を諭す。  取り敢えず1人でこの人混みを歩くのは止めよう。最初の目的を忘れる処だった。  「蓮、何か欲しい物ある?高いのは無理だけど。(^ ^)」  空気が重いが、気にせず話かける。  「そうだねぇ.....」  蓮も折角のデートをオジャンにしたく無いみたいで、気分を切り替えて欲しい物を考えてる。  「そういや、ここ九州なのに関東より寒いよね。......そうだ。マフラーが良い。新しいマフラーが欲しい!」  そうか、マフラーか。近くに老舗のデパートがある。早速行ってみよう。シーズンだけに、沢山あって目移りしている。柄、手触り....。  「値段気にしなくて良いから、気に入ったの選べよ。」  (3万円以内で宜しく!)  と本音を思ってみた。  「これが良い。カシミアか。手触りも良いし、かさ張らないのが良いね!」  蓮はベーシックなカラーの上品なマフラーを選んだ。センス良いなぁ。育った環境からかな?値段は...ギリギリ予算内だった。一安心。  「じゃ次は凛のだね、何が欲しい?」  う~ん、物欲乏しい俺は何にも考えてなかった。何でも良いって1番困るよね。  すると蓮が、何かに気が付いた様に  「手袋は、どう?」  そう俺は寒いのが苦手。いつもハァ~って両手を合わせて温めてる。よく見てるなぁ。気が利く男はこうも違うのか?  売り場についたら、これまた沢山ある。う~ん、どれにしよう。悩んでいたら、蓮がこれ良さそうだよって、幾つか持ってきた。有難い。この中から選べば良い。  「この軟らかい皮の奴良いね、中はボアだから、暖かそう。」  値段は見ない。怖いから。  蓮が支払いを済ませて早速着けたら、暖かい。寒がりなのに手袋持って無かったから嬉しい。  買い物も済んで外に出るともう日が傾いてきている。そろそろ帰ろうか?って話してた時。  嗅いだ事がある臭いがした。人混みで様々な臭いはするが、これだけ強く感じるなんておかしい。  そう血の臭いだ。  俺達は、その臭いの元を探す為に街を歩き回った。徐々に強くなって来る。メインストリートから、少し離れた脇道に入る。  ゴミの山だ。ここから臭って来る。  少しゴミを漁ってみる。デカイポリバケツが出てきた。蓋が付いているがこれから臭ってくる。蓋を開けるのには、多少勇気がいったが、ここまで来たんだ。覚悟して開けた。  其処には、まだ十代らしい少女の遺体があった。何も着ていなかったから、身体の傷もハッキリ分かる。見覚えのある傷跡。 俺が蓮や華に付けたあの傷跡。  ヴァンパイアだ。  しかも、傷跡が多い。少女の身体は血液を吸い尽くされたのか、真っ白だ。  蓮は警察に連絡している。  俺は。  俺は怒りで身体が震えていた。我が子と年端も変わらない少女を死ぬまで血を吸い尽くすなんて。それに複数でだ。  俺は既にヴァンパイアモードだ。怒りに満ちている。  日も完全に沈み、暗くなった。  蓮も俺と同じく怒りに満ち、ヴァンパイアモードになっていた。  感覚が鋭くなる。メインストリートの方から、生臭い、そうあのナイトウォーカーの臭いがして来た。  ガブリエルが伝えた俺達の役目が、今始まる。

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