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第12話

 「色ボケ親父って!マジクソウケるな!」  大爆笑の蓮。他人事じゃねーよ。お前も見られてるの!  「一緒に暮らしてるんだから、事故位起こるさ。いちいち気にしてたら何もできないだろ。」  そりゃそうだけど、朝から見るモノじゃないだろう。親父と彼氏の裸の寝姿なんて。しかもドアが開いていたって事は、まさか最中も・・・  華の帰宅が怖いんですけど。  「ま、その内慣れるよ。」  相変わらず楽観的な考えをお持ちで。今日は、始業式だから早く帰ってくるよな。気持ち悪いモノ見せたお詫びにちょっと菓子でも買って来よう。  「ちょっと出掛けて来る。」  「どこに?俺もいく!」  「大丈夫だって、そこの洋菓子屋だよ。」  何か蓮は付き合った相手を多少縛り付けるタイプみたいだ。う~ん。苦手かも、そこの所だけ。  華が大好きなティラミス。帰宅して何か言われる前に出す。うん、黙ってる。作戦成功・・・  「あのさ、夜励むのは勝手だけどドア位ちゃんと閉めて。耳が腐る。私、ナマモノ嫌いだから。」  成功しませんでした。全てバレてました。以後気をつけます。  そういや、漫画の話でよく盛り上がってたな。分からない単語ばかりだったから、蓮に聞いてみた。  ・・・ようは、ゲイの営みを愛好する男女がいて、それが漫画になってて同人誌になるのか。華はそんなん読んでたのか。ナマモノも意味が分かった。どうやらリアルなゲイは気持ち悪いらしい。目の前にいるんだけどね。あれだ、漫画って美化されるしな。そりゃそっちがイイわ。蓮も読むらしく同人誌を持っている。  「見てみる?面白いよ。多分。」  顔がニヤニヤしている。なんか嫌な予感はするけど、勧められた同人誌、薄い本とも言うらしい漫画を読んでみた。  何だこれ?生々しいじゃないか!最中の描写なんて読んでて居た堪れない。ハッ。もしかしてコレ参考に使ってないか?   ジィーと蓮を見ると目を外らす。やっぱり何か怪しい。漫画が参考書って怖くない?何冊か目を通すと激しいプレイとか描いてある。まさか、コレやるつもりじゃなかろうな。戦々恐々。  蓮は、仕事に自宅に帰り、生活は俺の家になってる。同居してる訳だ。居てくれるのは、嬉しいし、楽しい。でも、バツイチ歴が長い俺は1人の時間も欲しい。近くのショッピングモールに行くにも蓮は付いて来る。これって結構ストレスになる。ハッキリ言った方がいいのかな?ちょっと緊張するけど言ってみよう。  「蓮、あのさ。俺もたまには1人でウロウロしたいんだ。だからさ、心配だろうけど、もう少し自由な時間が欲しい。」  よし、言ったぞ。ちゃんと伝わるといいけど。  「・・・俺、ウザい?」  「いや、そうじゃなくて、たまにね1人で出掛けたいだけ。」  蓮が凹んでる。仕方ないなぁ。華は部屋だし、リビングだけどソファーに座ってる蓮の上に跨って  「蓮、大好きだから、誤解しないで。」 と、ちょっと大胆になって額にキスをした。蓮は驚いてたけど笑顔になって抱きついてきた。う~ん幸せ。  華の部屋からスリッパが飛んで来た。また見られた。  「イチャイチャは部屋でやれ!」  バタンッとドアが閉まる。昨夜に続き本日で事故2回目。本当に慣れてくれるのかなぁ、不安だ。  「凛の部屋って、広いよね。」  確かにキングサイズのベッドを置いてもまだ余裕がある。メインベッドルームだから広いんだ。  「あのさ、欲しい物があるんだけど凛の部屋に置かせて貰えると嬉しいんだけどな。」  「何買うの?」  「ピアノ。グランドタイプは、デカ過ぎるから、部屋に合わせたサイズの物を買おうかな。」  そういえば、ピアノとヴァイオリンが彼の趣味だ。  「確か新春セールって広告入ってたな。見に行ってみる?いつものモールだし。」  「え?本当?行きたいなぁ・・・」  うん?行けばいいのに何だか考えている。  「1人で行ってもつまらない。」  成る程。さっき1人の時間が欲しいって言ったばかりだ。  「いいよ。一緒に行こう。あれって試し弾きみたいな事出来るんだろ?蓮の腕前披露したら?俺も聴きたい。」  嬉しそうだ。明日にでも行ってみるか。  徒歩でも行ける距離だけど買出しもあるので、俺の愛車でモールへ向かう。真っ赤なスポーツカーなんて目立って仕方ない。  催事会場に行くとグランドタイプからコンパクトタイプまでピアノが展示販売されている。蓮は、眼を輝かせて物色してる。  「すいません。試し弾きしても大丈夫ですか?」  「はい、大丈夫ですよ。」  蓮がグランドタイプに座る。そうだね、やっぱり本当はグランドタイプが欲しいよね。音楽の趣味がよく似てるけど、てっきりクラシックを弾くと思っていたら。聴こえてきたのは。  パイレーツオブカリビアン 彼こそが海賊!譜面無しでリズム良く弾いている。すげー。続いては、これまたポップスなEd SheerenのShape of you。俺の好きな曲だ。  ギャラリーが集まって来た。蓮の試し弾き終了。クラシックは分からないけど、こんなにポップスとか弾けるなら、俺も喜んでピアノ賛成だ。何点か見て回り、部屋に置けるタイプの物を買うようだ。例のブラックカードで。  「あの手入れ?調律だっけ?あれ頼むの?」  「自分で出来るよ。俺、音大出身。調律も習った。」  凄いな。あぁそうだ、ヴァイオリンも弾けるよな。  「なぁ、ヴァイオリン弾けるんだろ?」  「うん、チビの頃から習わせられたから。まぁ好きだしね。どうして?」  「ほら、あの何だっけ、北欧の歌手でさヴァイオリン弾きながら歌う人、えぇと・・・」  「ん?そういやよくYouTubeで見てるよね。あれは・・・」  「あ!Alexander Rybak だ。その人のFairytale が聴きたい。てか弾ける様になりたい!」  「良いね!次の休みに楽器店に行こう。流石にここの店舗には置いてない様だし。」  何だか嬉しそうだ。  家にピアノも届いて早速調律している。オモチャが手に入った子供みたいに夢中になっている。家の中に少しずつ蓮の物、そして居場所が出来て来た。共に暮らすって、こんな感じだったかぁ。感慨深いもんだなぁ。  休みになって、2人でアーケード街へ。あの戦い以来だ。今日は何も感じない。大丈夫。楽器店には少々歩かなければいけない。デートも兼ねて街ブラする。例の如く視線が刺さる。目立ちたく無いんだけどなぁ。目立つ理由は蓮だけが原因じゃないから文句たれる先がない。視線にも慣れないとね。  「凛、俺ちょっとトイレ行ってくる。」  「分かった。俺ここでまってるわ。」  2月に入り寒さ厳しいけど今日はそうでもない。貰った手袋もあるし。  「ねぇねぇ、お兄さん。モデルか何かやってるの?」  見知らぬ男が話し掛けてきた。  「いいえ、特にしてません。」  「そう、じゃぁさウチの事務所、見て見ない?」  「・・・はい?あ~俺、モデルとか興味無いんでスンマセン。」  「いや、モデルじゃ無いんだよね。所属しなくていいから、一回出演するだけで3万円出すよ?いや、お兄さん美人だから、5万円出すよ。」  ん?出演って何だ?  「よく分からないんですけど?」  「一回ポッキリで良いから、ウチの男優と寝てくれれば良いよ。心配無いよ、リードは男優がしてくれるから。ね?どう。小遣い稼ぎと思ってさ。」  はい?男優と寝る?  「俺のツレに何か用か?」  俺の背後に仁王立ちしている蓮。あかん、キレそうだ。  「あ、ツレも来たんで失礼します!」  足早に立ち去る。後ろで会話を聞いていたらしい。  「だから俺、凛1人で出したくなかったのに。」  俺は状況が理解出来ない。  「どういうこと?」  「はぁ?何言われてたか、分かってないの?」  うん、よく分かって無い。  「あのね、手っ取り早く言うと、5万やるからゲイビデオに出ないか?ってスカウトされてたんだよ?」  え?マジか?俺、マジかばっかり言ってる気がする。  若い頃は、いつも女連れだったから、こんな事無かった。ディウォーカーになってから蓮やら他から、綺麗だの美しいだの言われてる。そんなに変わったのかな?俺にはサッパリ分からない。  楽器店についた。沢山の楽器が並んでいる。高価そう~。でも入門レベルのヴァイオリンは数万円からある。それを頼もうとしたら、蓮が別のショーケースの中のヴァイオリンを見ている。え、そっち高い奴やん。蓮は気にせず、店員に出して貰い俺に渡す。  「構えてみて?シックリくる?」  蓮に教えて貰って構えてみる。何だか違和感がある。また新しいヴァイオリンを持ってみる。うん?コレ良いかも。  「これ、良い感じ。しっくり来るよ。」  「よし、コレにしよう。」  「でも、コレ幾らだよ。高いの要らないよ。」  「何度も買い直すより、お得だよ。」  チラッと値段見てしまった。70万?!い、要らない、要らない。趣味にこんな高価な物要らない。  「一生で一度の買い物だよ。趣味に金掛けられないのは心にゆとりが無い証拠。」  財布にもゆとり無いわ!心にも無いけどさ!  「俺からのプレゼント。気にすんな。」  リッチマン蓮から、高価なプレゼントを頂きました。これで、弾けなかったらどうしよう。  帰りにスターバックスに立ち寄り、甘ーいドリンクを注文。蓮はコーヒー。  「さっき、声かけられたでしょ?他になんか無かった?」  ゲイビデオのスカウトの話か。  「あ~、うん。特に何も無かったよ?」  「嘘つけ、目が泳いでる。何かあっただろ。」  「・・・ハイ、有りました。嘘つきました。」  何があったか、詰問される。俺悪く無いのに。  「よ、4人程、お声を掛けられました。ハイ。」  「男?女?」  そこ聞く?ただでさえメンタル削られた場所なんですが。 「・・・・・全員、男でした。」  ガックリと肩を落とす蓮。  「凛が1人で、外出したいのは尊重する。だけど市街地はダメ。分かったよね?」  「ハイ。ワカリマシタ。」  俺が1人で街に繰り出す=死亡フラグ。らしい。

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