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第56話

 帰国して空港にいる。  何か騒ついてる。何だろう。待合所のテレビに人集り。  俺も決してチビでは無いが、テレビ見えない。  「何かあってんの?」  身長が高い蓮に聞く。なんか厳しい顔してる。  「連続殺人事件だって。・・・特徴が引っかかるな。」  「そうですね。僕も気になります。」  画面が見えてる2人しかニュースが見れない。  「特徴って?何かおかしいの?」  「被害者の周りに少量の血痕は有るのに、遺体に血液が殆ど無いそうだ。」  「遺体には噛み傷が複数、だそうです。」  「なにそれ。もう確定してんじゃない。ヴァンパイアの仕業でしょう?」  テレビから離れ、コーヒーショップで一息。  「複数の噛み傷か。また流れ込んできたのかな?」  「俺達が、居ないのをまるで、見計らったみたいだな。」  蓮は、新聞を買って情報を集めてる。  「規模が分からないので、迂闊に動けませんね。4人しか居ないし。」  「うん、そこが問題。・・・ロイに連絡してみる?」  「何処に居るか分からないし、奴は昼間動けないから、無理だろう。ケンの抜けた穴はデカイな。」  そうだね。彼は強かった。  蓮がどこかに電話してる。  「もしもし、蓮です。エクソシストの責任者の・・・」  バチカンか。情報がニュースだけでは、心もとない。ガブリエルも、まだ現れないし、状況が把握出来ない。事件が起きてるのは、東京。もし、ヴァンパイアなら家に帰るわけにはいかない。  「なんて言ってた?」  「現状、情報収集中。恐らく闇の住人で有ろうと予測して、エクソシストを日本に送る準備してるらしい。」  「じゃ、彼らと合流した方が良くない?」  「そうだな。その方が良いだろう。健太は、スケジュール大丈夫か?」  「はい、あと1週間は空けてます。」  「じゃ、滞在先、確保して夜回りするか。」  その間に、エクソシストと合流。  「蓮、携帯貸して。」  「ん?ほい。」  「ロイにも、やっぱり声かけてみる。何かやな予感しかしない。」  携帯に電話をかける。なかなか出ない。繋がるから解約はしてないみたいだけど。  〔もしもし?凛か。久しぶりだな。〕  「良かった。出ないから心配したよ。」  〔何か起きたのか?困ると連絡してくるからね。〕  「あ、わかる?何か東京でヴァンパイアらしき奴らが、人間を襲ってるみたい。もう被害者も10人超えて騒ぎになってる。」  〔ふむ。今、東京に着いたばかりで私も情報は持ってない。夜になったら、またこちらから連絡しよう。〕  あ、そうか。昼間は寝てるんだった。  1週間で片付ければいいけど。滞在先のホテルを取って、向かう。  「凛には要注意だな。前より能力高まってるし。多分、標的になる。」  「逆に言えば探す必要がないから、手間が省ける。」  「・・・お気楽だな。前回、連れていかれそうになったのに。」  「・・・・ごめん。」  「まぁいい。確かに探す手間が省けるのは楽だな。被害が出た辺りは結構、集中してるから、その辺ウロウロすりゃ出てくるだろう。」  「エクソシストは待たないの?」  「いつ合流出来るか分からない。ロイも加わるなら、ある程度は大丈夫だろう?」  早めに夕食を取り、事件現場周辺へ向かう。黄色いテープがあちこちに張られてる。  「臭うけど、薄いな。移動したかな。」  「そうかもな。これだけ騒ぎになりゃ移動もするか。」  「う~ん。目星も無く歩き回るのは、無駄だと思う。」  目を閉じて、自分の中に意識を集める。惹きつける能力を使うんだ。深呼吸して、身体に力を入れる。身体が熱くなる。フワッと全身に何かが走った。  「ちょ、ちょっと姫、姿変化してる!」  色素は薄くなり、強くフェロモン?みたいなのが溢れるのがわかる。  「凄いな。凛さん、美しいとか綺麗とかそんなレベルじゃない。」  健太も驚いてる。蓮は一度見てる。まぁ、ラブホで見たんだけどね。  「ガブリエルこねーかな。情報くらい寄こせや。」  蓮がイラつきながら、警戒を始める。死臭が強くなったからだ。まだ陽が落ちきってない。影で蠢いてる気配がする。  「凛、何だ。その姿は?」  ロイが陽に当たらないように、現れた。  「よく場所、分かったね。」  「凛の香りを辿ればわかる。囮にでもなるつもりか?もっと能力抑えろ。」  「大丈夫。奴等が出てきたら、能力使わない。」  「そんなに上手く行くと思うか?多いぞ。そこら中に居る。」  「どの位だ?」  蓮が聞く。  「そうだな。80~100といったくらいか。ドイツの時より多少多いと思えば良い。数の割に被害者が少ない。私が把握してるのは、25人位だ。」  多いじゃないか。100?どうやって日本に入れたんだ?  「私のようなタイプを支援する人間が居るように、今、潜んでる奴等を呼ぶ人間も居るということだ。」  ロイが俺に触れる。  「それにしても見事な変化だな。表現し難い美貌だ。私も凛の能力に当てられそうだ。」  「ロイ、それ以上凛に触れるな。」  険しい表情で蓮が言う。  空が暗くなる。完全に陽が落ちたら、奴等が出て来るだろう。暴れやすい公園を見つけて、中央に立つ。皆んなは少し離れた場所で待機する。  闇に紛れて、1人の男が近寄って来た。強い死臭がする。俺をまるで品定めするみたいに全身を舐め回すように眺める。正直、恐怖心で逃げたい。けど、これは俺の役目だ。  何か言ってるが、日本語でも英語でもない。何を言ってるか分からない。  次の瞬間、腰に腕を回され抱きかかえられた!  「凛!」  蓮が飛び出してきた。髪を掴まれ、頭を横に倒され、首筋が露わになった。ヤバイ!吸われる!  思った瞬間にもう噛み付かれた。俺と密着してるから、華も攻撃出来ず、近くで浮遊して隙を待つ。凄い勢いで血液を吸われる。意識が遠のく。震える手でネックレスに触れ、武器を奴の腹の中で出す。体を貫通し、悲鳴をあげる。体を離し、華が切り裂く。  フラフラの俺は地面に倒れこむ。影に潜んでいた奴等が這い出てきた。戦わなくちゃいけないのに、立つ事もままならない。また、足手まといになる。  「凛、こっちだ!」  ロイが呼ぶ。ほかのメンツは、這い出て来た奴等と対戦してる。  なんとかロイの元にたどり着く。  「協力者だ。血を分けてもらえ。」  ガタイの良い男性が腕を差し出して来た。  「いいの?大丈夫なのか?」  「大丈夫です。早く飲んで、アイツら倒してください!」  悩んでる時間は無い。相手が多過ぎる。  「ごめん、貰うよ。」  彼の腕に噛み付く。新鮮な血液。かなり飲んで無い。夢中になって啜る。彼の身体がフラつき、我に返った。  「ごめん!飲み過ぎた!大丈夫か?」  「はい、大丈夫です。早く戻って下さい!」  既にロイも参戦してる。それでも押されてる感じが否めない。力が漲る身体に武器を持ち、戦いに突入した。  「くそッ!多い!逃げてる奴もいる!収集がつかないぞ!」  「私が追う!」  華が逃げてる奴等を追う。蓮の背中がガラ空きだ。蓮に背中を向け  「復活凛ちゃん、参戦!」  「笑わかすな!何が凛ちゃんだ!」  血液を飲んで、身体が軽い。トントンと壁を蹴り、身を翻し切り裂いていく。1人も逃さない。中には恐らく十代らしき相手もいる。だけど見逃すわけにはいかない。  小一時間だろうか。切り裂かれた奴等の灰があちこちに落ちている。  「数人逃しちゃったけど、多分もう来ないわ。」  一人で格闘してた華も帰ってきた。  「つ、疲れました。流石に多かった。」  「確かに多かったな。俺も疲れた。」  元気なのは俺だけ。トントンと公園内を見廻る。  「私もこれ程とは思わなかったよ。協力者を呼んでいて正解だったな。」  「あぁ、ロイには感謝だ。凛がフルパワーだとかなり強くなったんだ。ガブリエルが言ってた通りだ。」  木に足を引っ掛け、逆さまにぶら下がる。  「それにしても、こんな規模なのに、何故ガブリエルは現れないんだろう。意味なく無い?」  「・・・元気だな。そうだな。意味ねーな。」  「もう、今夜は穏やかだろう。私は協力者を送って引き上げるよ。」  「あぁ、ありがとう。助かったよ!」  手をブンブン振って別れる。  「おい、いつまでぶら下がってんだ。降りろ。俺達も帰るぞ。」  みんなクタクタだ。そりゃそうだ。各自持ってる能力が違う。3人は血液を必要としない代わりに、自力で体力を回復させなきゃいけない。俺は協力者のおかげで全く疲れていない。  「じゃ、おやすみ。お疲れ~」  それぞれの部屋に入る。  「なんか、食べる?そのまま寝ても回復遅いだろ?」  「うん、そうだな。なんか買ってきてくれる?」  うん、わかったと、3人分の食料を一階のコンビニで調達して、差し入れした。  「ほら、蓮も食べて。それから寝ないと。」  「分かった。」  食べるのもキツそうだ。血液が要らないってのも、なんか不便かも知れない。  翌朝。テレビを付けて愕然とした。  また、被害者が出た。  「何で?昨日、始末したじゃん!まだ他にも居るのか?俺達だけじゃどうにもならないよ!」  頭を抱えた。  「ガブリエル!ガブリエル、出てこい!今現れないなら、意味ねーぞっ!バカリエル!」  「誰がバカリエルだ。私はガブリエルだ。」  「おせーよ!何してんだよ!」  「お前達が日本に居なかったのに、私に何をしろと言うんだ?」  「帰国したら、すぐ現れれば良かったんだよ!昨日、始末した奴等が事件起こしたんじゃ無いのか?」  「残念ながら違うようだ。まぁ、昨日の者達も放って置けば、同じ事をしていただろうから、無駄な戦いでは無い。」  ドサッとベッドに座る。  「昨日の戦いで、こっちは疲弊してる。事件を起こしてる奴等まで手が回らない。」  「被害者は、止まらないだろう。エクソシストも今日、日本に着く。合流して協力するしかないな。」  疲れ切ってる蓮は、まだ深い眠りの中だ。多分、華達も。  「規模は、分かるか?」  「そうだな。少ない。10人程度だ。」  それくらいなら、俺だけでもいけるかも知れない。  「現れる場所は?」  「ここから、そう遠くない。凛、1人で対抗するつもりか?」  「こっちの戦力は、俺しか居ない。エクソシストもどの程度か分からない。ドイツのレベルなら使えるけど。」  「やめておけ。あと1日もすれば、全員回復する。」  「その間も被害者が出るじゃないか!」  「多少強くなったとは言え、1人は危険だ。やめるんだ。」  「大丈夫。俺だけでやれる。」  「止めても無駄か。犬死するなよ。」  そう言ってガブリエルは消えた。  夕方、まだ目を覚まさない蓮。  「蓮、行ってくるね。少ないから直ぐに戻るよ。」  蓮の頭にキスをした。フワッと蓮の香り。  起こさないように静かに部屋を後にした。  (確か、この辺のはず。)  自分に集中。能力で集めて一網打尽にする。  まだ陽が落ちてない。だけど、あの臭いが強くなる。陽が当たってる筈なのに、蠢く影。数は少ないが、ナイトウォーカーじゃない?何者だ?  四つ脚で歩いてた1人が、スッと立ち上がり、近づいて来た。身体は体毛が覆ってる。獣の臭いもする。ソイツと目が合った。視線が外せない!  油断した。恐らく何かしら能力を持ってる。身体が動かない。ヤバイ。いきなり危機だ。品定めしてる。殺すのか?鋭い爪で俺に触れる。  暫くすると、残りの仲間も出てきて俺を取り囲む。様々な姿をした闇の住人。  後悔先に立たず。  (あぁ、ガブリエルの言う通りだったな。俺死ぬのかな?やっと蓮と深く繋がって幸せだったのに。俺、本当に馬鹿だ。)  心の中で、蓮に謝る。1人で何とかしようなんて、正義感ぶって。  体毛に覆われた奴に抱えられ、意識を失った。  「ん?あれ?凛、居ないのか?」  狭い部屋だ。声が聞こえない訳がない。華の所にも居なかった。何処に行った?嫌な予感しかしない。  「凛は、1人で始末しに行ったぞ。」  「はぁ?本当か?止めなかったのか!」  窓際にガブリエルが居た。  「止めた。1日もすれば皆、回復するから待てとね。だが、被害者が出ると言って1人で行った。」  「姫は無事なの!!」  華が震えながら聞く。  「まだ生きては居る。意識が無い。何故、奴等が凛を誘拐したかはわからない。殺すつもりなら、とうに殺してる筈なんだが。」  またか。また1人で終わらせようとしたのか。凛に対しても怒りが湧く。何故、俺達を信頼しない。1日待つ事も出来なかったのか?  「姫の馬鹿っ!」  本当にそうだ。馬鹿だ。  「僕がサーチします。ディウォーカーなら直ぐに分かる。能力を使ってるはずだから。」  場所がわかった。廃墟になってる工場地帯だ。俺でも分かる強い凛の香り。どこだ?  「ひ、姫っ!」  華が上を見上げてる。  そこには全裸で両手をロープで繋がれ、まるで十字架に磔にされたキリストの様な姿の凛が居た。身体には噛み跡。死ぬか死なないかのギリギリまで血液を吸われたんだろう。肌は死人のように土気色だ。それでも美貌は衰えない。また、美しさで命拾いしたか。  「良い生き餌だ。ノコノコと自ら殺されに仲間が来たぞ。」  ロープを揺らし、凛を起こしている。  「・・・れ・・ん、見ないで・・」  絞り出してやっと聞こえる声。凛の下半身に何か得体の知れないモノが巻きついてる。  「こうすると、この子喜ぶわ。女の子みたいにね。」  女の声だ。得体の知れないモノに手をかざす。それは気持ち悪く蠢きながら凛の身体を這い回る。  「・・うぅっ・・や・止めて・・」  身体を震わせながら、呻く凛。駆け寄ってよく見ると、そのツタのような蠢くモノが凛を犯していた。  「貴様ら、絶対に許さないからなっ!」  状況が分かった華からも怒気が溢れる。華がフッと姿を消した。次の瞬間、さっきの女の首が落ちて来た。同時に凛を犯していた物体もズルッと凛から抜け、力なく落ちた。  「あんたら、絶対許さない!」  俺達も、気配を察して凛を拉致った奴らを追う。  一匹、また一匹と倒していく。  ボスは誰だ?ボスを倒さなきゃまた、襲ってくる。  影が走る。後を追う。  そこには大きな狼が居た。コイツがボスか?  二本脚で立ち上がり醜い顔立ちで睨みつける。目を合わせると能力を感じたが、俺には通じない。俺も同じ能力だからだ。ジワジワと間を詰める。  「あの男の血は美味かったぞ?お前も飲んだか?クックックッ!」  笑ったまま、身体が真っ二つに裂けた。臭う。凄まじい死臭と獣臭。華が切り裂いた。目から涙が溢れてる。  「姫の所にいって。下に降ろしたから。」  凛の所に戻る。身体に華の上着がかけられていた。  「おい、起きろ。凛。起きろって!」  脚で凛を蹴る。  「蓮さん!落ち着いて!凛さん、生きてるのが奇跡ですよ!」  だからなんだ?俺達を信頼せずに死にかけてんだ。自業自得だろう?  「・・ゔう・・れ・蓮、ごめんなさい。」  力無い声で謝罪する。  「俺は怒ってる。分かるか凛!」  いつの間にか、俺も泣いていた。  「なんで、俺達を信頼しない?1日待てなかった?もう、何度目だ?いい加減にしてくれ。」  凛の脇に座り込み、嗚咽しながら、凛が生きていた事に感謝した。  ロイに電話をかけ、協力者を数人頼んだ。ここまで弱ると血液でしか回復出来ない。  「ここまで、やられたのか。痛々しいな。自力で飲めないんじゃないか?」  多分飲めないだろう。ロイが協力者の腕を噛み、血を流す。俺が口に含み、凛に飲ませる。最初は飲み込めず、吹き出した。それでも、少しずつ、コクンコクンと飲み込み始めた。肌も元の美しい色艶を取り戻す。協力者たちも、凛の美しさに驚いている。噛み跡も塞がり、力無く開いていた眼にも光が戻る。  「分かるか?凛。お前の勝手な行動で、俺達だけじゃない、ロイや協力者にも迷惑かけたんだ。分かるよな。」  美しい瞳には涙が溢れて、ロイと協力者に感謝していた。彼らが引き上げると  「私達も部屋に戻るわ。蓮、もう姫を責めないで。」  「・・・・。」  凛が俺の手にそっと触れて来た。俺は無意識に手を払ってしまった。  「ごめんね。蓮。また俺、汚れちゃった。触られたくないよね。ごめんね。」  「どうしたら、凛は俺達を信頼するんだ?いつも1人で終わらせようとするじゃないか。そんで毎回、やられて助けられて。学習能力ないのかよ!」  「うん。俺、物凄い馬鹿なんだよ。救いようがないくらいに。」  蓮の背中が、怒りとやるせなさで震えてる。手を触れようとしたら拒まれた。これが答えだ。これ以上、蓮にしがみつく訳にはいかない。左指から、指輪を抜いた。  「蓮、短かったけど、凄く幸せだったよ。これ、返す。俺が付けてる権利無いよ。」  「・・・わかった。」  蓮も指輪を抜いた。終わりの時だ。蓮に触れたい。けど駄目だ。もうどれだけ汚れた身体を許してくれただろうか。蓮に触れる事なんてしちゃ駄目だ。  静かに蓮は立ち上がり、荷物をもって部屋を出た。俺は、忘れないように見送った。  「姫、ご飯行かない?あら?蓮は?」  「うん?蓮は去ったよ。ちゃんと謝れたし、その結果だもの。仕方ないよ。」  テーブルの上に2つの指輪。  「本当に別れたの!何してんのよ!」  「もういいんだよ。華。別れはいずれ来るんだ。」  指輪を手に取る。  「置いていってくれただけでも感謝だよ。もう俺もいい歳だ。これが最後だから。」  2つの指輪を愛おしく握りしめる。  自宅に帰ると、蓮の荷物が綺麗に引き上げてあった。  「1人暮らしには、広過ぎるかな?引っ越すか。」  目は潤んでる。寂しい。寂しくて堪らない。  近くのジュエリーショップでチェーンを買って、2つの指輪を通し首に掛けた。  「蓮、元気でね。残していってくれてありがとう。」  携帯に残る蓮の画像見ながら、語り掛ける。  それからどれだけ時間が経っただろうか?季節は移り、満開の桜や紅葉した街路樹を何度も1人で眺めた。結局、引っ越しは出来なかった。俺が未練タラタラだからだ。蓮がいた空間から離れる事なんて出来なかった。蓮のお陰で、トレーダーで1人で食べていける。外出しなくても宅配で買い物が済む。  外出したの、いつだっけな?もう思い出せない。華達も大学を出ると健太の転勤で県外に出た。あぁ、そうだ。両親が他界した。事故だった。呆気なく独りぼっちになった。それから、外出してない。携帯の蓮の写真を1枚だけ現像して、写真立てに入れた。  俺の唯一の話し相手。返事は返ってこないけど、笑顔の蓮と話してる。  「蓮、元気かな?そろそろ夏が来るよ。また沖縄行きたいね。」  蓮の写真みながら、軽く食事を済ませる。一人分だ。外出もしないから、腹も減らない。かなり痩せたな。ズボン、全部ユルユルだ。  〔お荷物でーす。〕  宅配?華からだ。鉢植えの観賞植物。小さな花も咲いてる。  「華?ありがとう、お花届いたよ。枯らさないように、育てるから。」  〔ねぇ、ちゃんと食べてる?なんでテレビ電話はしちゃ駄目なの?〕  「う~ん、だって電話切った後、寂しくなるから。」  本当は痩せてしまった身体を見せる訳にはいかない。食事はそうだな、3日に1度くらいで、後は血液をたまに飲んで命を繋いでる。徐々に食欲も減り、物欲も無くなり、引きこもってる。生きる目的も無い。死ぬ事も出来ないから、こうやって静かに弱るのを待つしかない。でも、不幸じゃない。部屋にいる限り、楽しかった想い出が満ちている。通販で大きなクマのヌイグルミを買った。お陰で広いベッドも寂しくない。蓮の写真を持って毎日、移動する。だから平気。  毎日、夜が楽しみなんだ。だって夢の中で蓮と一緒だから。色んな話したりベタベタしたり。楽しいんだ。  蓮、元気かな?遠目でもいいから、一目最期に見たいな。

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