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第57話
もう凛と離れて数年が経つ。あの街は好きだった。自然も豊かで都会の便利さも兼ねていた。今は関東のとある街に1人で暮らしてる。今までの俺なら、彼女作ったり、女遊びしてただろう。
でも、凛と別れてから、全く他人に興味が無くなった。どんなに愛しても信頼してもらえなかった哀しさは、もう経験したくない。あんなに綺麗なんだ。新しいパートナーも見つかるだろう。性別が気になるけど。
仕事に忙殺され、凛の事を想い出さずに済んでる。たまに携帯に入ってる綺麗な凛の画像を見てしまうと1日落ち込んでしまう。逢いたい。逢いたいと心が泣いている。
GWも何も予定もなく過ごした。テレビで沖縄が出た。凛とまた行きたいな。でも、自分で別れを選んどいて、今更何が出来る?でもまだ好きなんだよな。たまに夢で逢えて泣きながら目を覚ます。
遠くから、一目、元気な姿、見るくらい、いいだろうか?一目見て幸せならば、諦めもつく。もう、泣いて朝を迎えたくない。
飛行機に乗って後悔。もし、バレたら?バレて、今恋人が居て関係が悪くなったらどうする?あぁ、俺って馬鹿だ。
そうこうしてる内に、凛が住んでるはずの街に着く。そうだ。まだ同じ場所に住んでるとは限らない。はぁ、それ位も予想出来ないなんて。
凛のマンションの前の公園でボーっとしてる。何してんだろ俺?帰ろうとしたら、マンションからブロンドの人影。凛?凛か?何だ?骨と皮じゃないか!やせ細って、一見誰か分からなかった。フラフラとした足取りで、ゴミ出ししてる。肌も白い。全く外出してないみたいだ。
俺は、強引に道を渡り、凛の元に走ってた。
「凛!凛、何て姿してんだ!」
聞き覚えのある声。遠い想い出の中で聞いていた声。幻聴まで聞こえる様になったか。末期だな、俺。運動不足とまともに食べてない身体はふらつく。はやく部屋に戻らなきゃ。
「凛!聞こえないのか?俺だ!蓮だよ!」
自分の部屋の番号を入力しようとした手を掴まれた。ゆっくり手を掴んだ人を振り向く。
「れ、蓮?蓮、何で?」
夢かな?抱きしめられてる。暖かいな。次は幻視か?何だろう。暖かくてフワッとして意識が飛んだ。
目が覚めたら寝室にいた。夢だったみたい。でも嬉しかったな。蓮に抱きしめられた。暖かくて、俺の休める蓮の腕の中。
「目、覚めた?これ飲んで。」
夢じゃなかった。目の前に蓮が居た。
「な、なんで、なんで居るの?どうしたの?」
「一目、見たかった。幸せなら諦められると思って。」
そうか、蓮も一目、見たかったのか。申し訳ないなぁ。こんな姿、見せたく無かった。
「こんなに痩せて、何してんだよ!」
「うん、何だか食欲もなくて、外出もしなくなったら痩せちゃった。」
何とか笑ってみせる。ちゃんと生活してるって思わせて帰らせないと、多分情けで、また俺の所に来てしまう。
「ご仏壇あるけど、どうしたの?」
「あ、あれ、両親が事故で亡くなったの。だから仏壇買って置いてる。なかなか墓参り行けないけどね。」
「華達は?」
「健太が転勤してね。今は関東にいるよ。こんなに痩せちゃったから、モデルもしてないよ。みっともないからね。」
クスッと笑う。
「じゃ、独りぼっちじゃないか。」
「うん、仕方ないよ。みんな、独立するか逝ってしまうか、どちらかだもの。」
とても穏やかな凛。笑顔も痩せてしまったが、美しいままだ。でも、すぐに分かった。死ぬ為に今生きてる。死ぬ事が出来ないから、徐々に身体を弱らせていくんだ。
「何やってんだよ!俺、凛は幸せになってると思ってたのに!」
「うん、幸せだよ?蓮のお陰で、家で仕事出来るし、蓮が置いていってくれた指輪もちゃんとあるから。」
細くなった首元から、ネックレスが出てきた。指輪が2つ。
「本当はね、指に付けたかったんだけど、ブカブカになっちゃってさ、だから首から掛けてる。あのさ、こういうの嫌かな?嫌だったら外すから。」
「嫌じゃないよ。大丈夫。大丈夫だから。」
涙が止まらない。凛の時間は止まったままだった。別れたあの時のまま、俺を愛していた。馬鹿なのはどっちだ。何度も試練を乗り越えたのに、つまらない事で別れてしまった。
「泣かないで、蓮。蓮は何も悪くないよ?これは自然の摂理だよ。別れる運命だったんだ。だから、ちゃんと受け入れなきゃ駄目だよ。」
「別れる運命?そんなもん、知らねーよ!お互い好き合ってんのになんで別れる運命なんだよ!」
「仕方ないんだよ、蓮。蓮の歩く道と俺の歩く道はもう同じじゃないんだ。だから、ね、蓮。来てくれてありがとう。前向いて歩くんだよ?良いね?」
まるで小さな子供をなだめる様に優しく語りかける。
「嫌だ。ここに帰りたい!独りぼっちはもう嫌だ!」
痩せた凛に抱きついて泣き喚く。
「駄目、駄目だよ。いっときの感情に流されちゃ駄目だ。蓮、ちゃんと家に帰るんだ。」
「俺の帰る場所、此処しかもうないよ。それでも追い出すの?」
「・・・ずるいよ、蓮。追い出せないの分かってる癖に。」
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