61 / 109

第61話

 「 ・・・やっぱ、行かなきゃ駄目?」  「うん?そだね。期限、なんと今日まで。」  はぁ。マジかよ。退院帰りにラブホってあり得ないだろ?華も何送ってんだよ。  ド、ド、ド、ドンキー、ドンキホーテー♪  テーマソングが流れてる店内。目的は1つだから、一直線にそのコーナーへ。  (うわぁー、今日、客多い。行きたくね~。)  「ほら、一緒に探さないと。」  「いや、俺入らない。蓮に任せるよ。」  蓮は今、短髪で少し迫力が増してる。頭の傷跡は殆ど分からないけど。  「じゃ、コレとコレ。」  あ、ローション、ダースで買いやがった。  そうか。事故の時、買いに行く途中だったのか。  蓮から少し離れて後をついて行く。やだよ?カートにダースのローションと玩具だよ?恥ずかし過ぎてレジになんて並べない。  出口で待ってたら、重そうに荷物抱えて来た。  「病上がりに買い物任せるなんて、酷いなぁ。」  「病上がりが、退院帰りにラブホなんて行かない。」  「あれ?俺さ、今日はガッツリ、凛の沢山飲んで回復するつもりなんだけど。」  耳元で囁く。  「バ、バカじゃないの?!」  顔が火照る。離れようとしたら  「凛のタンク、空にするから。」  もう、もう恥ずかしい!そんな事ばっか考えてるから、下半身から回復するんだよ!  「あら、和室、埋まってるな。落ち着いた部屋が良いんだよね?」  「・・・うん。」  結局、いつものホテルに来てしまった。勿論、宿泊コース。  「コレ、良くない?少し高いけど、手出ししても、良い部屋だよ。」  「・・・任せるよ。」  「ん?あれ?なんか雰囲気違う。」  そう、ラブホじゃないみたい。和室もそうだったけど、まぁ和室もラブホっぽく窓とか無かった。  「マジか、露天風呂あるよ。」  「へぇ、ランクでえらい違い様だな。」  キングサイズのベッドとソファーにデカイテレビ。テレビは、まぁ多分、AVが流れるんだろうけど。・・・あれ、ゲームも出来るや。凄いな。カラオケまである。内風呂もシックで広い。普通のジュニアスィートルームみたい。  「凛、気に入った?」  「ん?まぁラブホはラブホなんだけど、内風呂も露天風呂もあるし、ゆっくり出来るね。」  残念なのは、食事が不味い。途中でコンビニで買ってきた。  「とりあえず、温泉入ろう?身体休ませるのが先。」  「ん、ありがとう。そうだな。ラブホだけど、こんなに寛げるなら普通の温泉来たみたいだ。」  マッタリと露天風呂を楽しむ。夏の終わりでも、まだ暑いからぬるめにしてあって、ゆっくり入れる。  「ん~気持ち良いなぁ。病院も良い部屋だったけど、風呂はあくまで身体洗うだけの場所だもんな。」  ユニットバスだったから、蓮には狭い。蓮の身体中に薄くはなったものの、傷跡が沢山残ってる。そっと、傷跡に触れた。  「生きてて良かった。ありがとう。」  「不老不死だろ?死なない死なない。」  (うん。蓮は死なない。俺は・・・)  その日のSEXは、とても穏やかだった。宣言通り、俺がイク度に零さず、全て飲んでしまってた。  挿入も激しいものではなく、優しくオーガズムに導くような行為。痙攣する俺を落ち着くまで待って再び突き上げる。  癒される交わりだった。  今、蓮は、疲れて眠っている。体力落ちて、SEXしてる場合じゃないのにね。蓮の顔や頭を優しく撫でる。  (後、少し。後少ししか時間がない。忘れないように全て焼き付けよう。)  最初に俺を襲った黒い影。奴は最期に呻きながら  「10の季節を迎えたら、お前も灰になる。」  ガブリエルにも聞いた。彼は黙って頷いた。運命は変えられない。  愛する者を残して先に逝くのと残されるのはどちらが辛いだろうか?俺には分からない。  「う~ん、すっかりマッタリし過ぎたね。でもかなり俺回復したよ。」  確かに髪は伸びて、身体もがっしりと元に戻った。うん、良かった。  「なぁ、蓮。残されるのと先に逝くのとどっちが辛いかなぁ。」  「何だよ。縁起でもない。・・・そうだな。残される方が辛いかもな。」  蓮は経験者だ。また、蓮に辛い想いをさせてしまうのか。申し訳ないな。  蓮に伝えるべきか、否か。悩んだ。朝目覚めて、隣で灰になってる俺を見つけたら蓮はどうなるだろうか?発狂しないだろうか?  俺のワガママが通るなら、蓮の腕の中で最期を迎えたい。そうすれば蓮もきっと受け入れられる。  「なぁ、蓮。落ち着いて話聞いてくれる?」  「うん。何?」  全て話した。黙って逝くのはあまりに哀しい。  「それは、どうしても変えられない事なの?」  握りしめてる手が震えている。  「うん。ガブリエルにも話したけど、頷いただけだった。同じディウォーカーでも、俺と蓮は違うから。」  俺の手も震えている。怖いのだ。今まで不老不死と思っていたけど、影の言葉の期限が迫ってきて、恐怖心が出てきた。  「蓮、俺、怖いよ。灰になったらどうなるのかな?魂はちゃんと天国に行けるのかな?」  「俺も嫌だ。やっと、やっと全て乗り越えて平和な生活が始まったのに、凛が灰になる?嫌に決まってる。」  2人して抱き合い嗚咽した。  それから毎日、蓮は俺を抱いた。何が変わるわけではないけれど。行為が終わると2人で泣いた。  別れの日が近い。  襲われた10月になった。襲われた日は忘れてない。カレンダーに印をつけた。  (後、2日。後2日しかない。)  蓮が背後から、抱きしめてきた。  「その印は何?」  「・・・襲われた日。」  「後2日か。・・信じたくない。凛。凛が消えるなんて。」  「俺も消えたくない。まだずっと蓮の側に居たい。」  なだれ込む様にその場で抱かれた。拒否なんてしない。蓮を身体に刻み込む。  「ガブリエル!ガブリエル来い!」  俺はガブリエルを呼んだ。  「どうした?切羽詰まってるようだが。」  「当たり前だ。凛が灰になるのは本当か?」  「あぁ、そうだ。彼は影の者の言った通り、10の季節を迎えたら灰になる。」  「どうにかならないのか?不老不死じゃないのかよ!」  「・・・ならない事もない。しかし・・」  その日が来た。朝から身体が重い。多分ジワジワと死に向かってるんだろう。  「別れなきゃ良かった。あの数年が勿体ない。」  「そうだね。でも過ぎた事だ。仕方ない。」  今、蓮の腕に抱かれてる。暖かい。窓からは秋の日差しが差し込んでる。寝室じゃなくて、リビングで最期を迎えたい。陰気臭いのは嫌だ。  数時間たった。もうすぐだ。もうすぐ俺は灰になる。  手足の先の感覚が無くなってきた。  左手の指輪を右手で支える。  「指輪、ありがとう。本当に嬉しかった。蓮のパートナーになれて幸せだったよ。」  「凛。凛が受け入れてくれて俺も嬉しかった。ありがとう。幸せだよ。」  2人して涙が止まらない。  指先が、白く変色してきた。痛みはない。ホロホロと崩れて逝く。  「蓮!蓮!大好き!愛してる!だから、だから、ちゃんと受け入れて、また愛する人探すんだよ!」  「俺には凛しか要らない。凛だけだ!」  身体が崩れて逝く。  「ダメ!ちゃんと新しい道を歩いて!」  「嫌だ!俺はずっと凛から離れない!」  「だ、ダメ、ちゃんと見つけて・・・。」  「凛、愛してる。」  「お・俺も・蓮・・愛してる・・・」  呆気なく、凛は、灰になった。涙溢れる。止まらない。何も知らなかった。10年も。10年も愛したのに。  落ち着いて、ガブリエルが言った通りに、残さず、灰をかき集めて袋へ入れた。指示通りに、教会へ向かう。助手席には小さくなってしまった凛。  (大丈夫。復活させてみせる。)  教会にはガブリエルとエクソシストの司祭が居た。  「凛の灰は?」  「これだ。どうすれば良い?」  聖堂内にはいり、白いシーツを広げその上に、凛の灰を袋から出して、置く。  ここから先は、俺には分からない。ただ復活を望むだけだ。  ガブリエルが自分の腕を切り、血を灰にかける。司祭は祈りを捧げて聖変化したキリストの血とされるワインを灰にかける。  濡れた灰は、更に小さくなった。司祭は祈りを捧げている。ガブリエルも目を閉じて集中している。  どの位経っただろうか。灰に変化が無い。やはり、復活は無理なのか?  「神に賛美。神は愛する子を再び世に送られる。」  その声と共に灰が、モコモコと膨れてきた。やがて人型になり、ハラハラと灰の中から美しい男が、現れた。  凛!凛だ!  「蓮、落ち着いてよく聞け。凛の身体は復活したが、君の記憶は無い。まっさらな、そう影に襲われる前までの記憶しかない。」  それで良い。嫌な記憶が沢山あり過ぎる。最初からやり直せる。  「しかし、いずれ記憶が戻った時、混乱を起こすかも知れない。慎重に相手しろ。」  裸の彼は、恥ずかしそうにうずくまっている。  「ほら、これ着て。名前わかる?」  「・・・な、名前?俺の名前、凛。」  「そう、そうだよ。凛だ。」  服を着せて、どの位、記憶が残ってるのか探る。  「俺の事、分かる?」  凛はキョトンとしている。一生懸命、思い出そうとしている様だ。  「うーん、分からない。」  「そうだ。今の凛は、ディウォーカーなのか?」  「あぁ、そうだ。君や華、健太と同じタイプのディウォーカーだ。」  そうか、もう血液要らないね。  「能力もそのままだ。記憶だけ、無い状態だ。」  ポケットに入れていた指輪を凛の左手に通す。  「これ、凛のだから。返すね。」  男からマリッジリングを渡されて少し驚いてる。ジィーと見つめてる。  「・・・これ、沖縄。沖縄で貰った。」  司祭も俺もガブリエルも驚いた。記憶が残ってる?  「れ・・蓮から貰った。嬉しかった。」  「俺が分かるの?」  「貴方の事、分からないけど、蓮っていう人から貰ったよ。凄く嬉しかったんだ。」  「予想以上だな。記憶、戻ると良いな。」  そういうとガブリエルは、消え、司祭も聖堂を後にした。  「家に帰ろう?一緒に暮らしてる。」  「一緒に暮らしてるの?娘の華が居るのに?」  「もう、華は結婚して独立したよ。凛と俺と2人暮らししてる。」  「・・・どういう関係?なんで男と暮らしてるの?それにいつの間に、金髪にしたの?」  「まぁ、そんなに慌てなくても良いよ。ゆっくり思い出せば良い。」  「だって、華はまだ高校生だし、なんで結婚?訳が分からない。」  混乱してる。でも大丈夫。焦らず思い出せば良い。だって、蓮という名前と指輪、覚えていた。そして身体の復活。それだけで今の俺には充分すぎる。  数日が経った。ガブリエルも協力的で、頻繁に現れ、ディウォーカーの存在を教え、理解するまでやりとりしてる。  「ん。甘い香り!何作ったんですか?」  会話がタメ語じゃないのが少し淋しい。  「ケーキ。シフォンケーキだよ。凛は甘い物大好きだからね。」  「へぇ、良く知ってますね!」  「灰になる前は、禁止してたからね。俺と同じタイプのディウォーカーになったから、もう食べても大丈夫だろう。」  「本当は、半日とか置いた方が美味しいんですよ。だけど我慢できないな。食べて良いですか?」  「どうぞ。食べて良いよ。」  「・・うん、美味しい!甘いの食べれないのに作れるなんて凄いや。」  「へぇ、俺が甘いの苦手なの覚えてるんだ。」  「あれ、そうだ。覚えてる。フフッ、細かい所覚えてるのに重要な所忘れてる。」  クスクス笑う。笑顔が美しい。復活して新しい身体になったせいか?一段と美しくなった。  最初はキングサイズのベッドに一緒に寝るのが違和感があるみたいで、華の部屋で寝起きしてたけど、今は一緒に寝てる。沢山お喋りして楽しいみたいだ。  無意識なのか、眠りに落ちるとモゾモゾと腕の中に入ってくる。記憶が戻るのもそう遠くないだろう。  数ヶ月が経った。正月を迎え、華達も帰省してきた。灰になって復活して記憶が無い事は説明してる。華が大人になってる事に戸惑っているが、結婚写真や色んな物を見せて説明してる。  「蓮の事、思い出したの?その恋人として。」  「うんにゃ、まだ。蓮って言う名前と俺がまだ繋がらないみたい。指輪の事はちゃんと覚えていたから、気長に待つよ。」  「そうか。切ないけど、頑張って。あと復活させてくれてありがとう。ガブリエルにも伝えて。」  「了解。俺は執念深いからね。簡単に諦めないさ。」  暖かくなってきた。街路樹の桜が満開になった。  「散歩がてらに、桜見に行かない?」  「そうですね。暖かいし。散る前にみたいですね。」  近所の街路樹を見上げながらのんびり歩く。今の関係はただの同居人。ルームシェアしてるだけだ。そこに恋愛関係は無い。それでも凛が隣にいて毎日、一緒に暮らしてる。もう、灰になる事も無い。それで良いじゃないか。  身体の関係が無くても、今、信頼関係は築けてる。うん。それで良い。何故か指輪、外さないけど。  ブワッと強い風が吹いた。満開の桜が散り桜吹雪だ。少し前を歩いてた凛も霞むくらい。  「凄かったな。桜吹雪。」  「蓮、蓮。ただ今。」  何キッカケか俺には分からない。桜吹雪の後、俺を正面から見つめながら、ただ今。といって、俺に抱きついて来た。  桜吹雪。独りぼっちの数年間1人で眺めてきた。桜の向こうには蓮が居るかも知れないなんて想像して。  ポッカリ空いていた穴に桜吹雪が舞った。あの向こうには大切な大事な人が居る。ふとそう思ったら、嵐のように記憶が溢れてきた。そうだ。俺は灰になって、蘇った。そして、桜吹雪の向こうには、蓮が居る。  真昼間、人の往来も有ったけど、気にしない。泣きながら蓮にキスをする。愛してる。愛してる。どれだけ、伝えても足りない。彼の元に戻れた。神は居る。確かにいるのだ。  俺は凛として、蓮のパートナーとして、また此処にいる。蓮も強く抱きしめ、涙を流しながらキスを交わす。  「家に帰ろう?もう、プリン。出来てるよ。」  記憶が戻っただけじゃなかった。身体に力が漲る。新しい身体は軽くて、だるさを感じない。何故、だるさが無い?そりゃ数ヶ月振りに蓮とそういう事を致したからだ。どんなにオーガズムを感じてナカイキが続いても、意識が飛ばない。ずっと感じられる。  「なんか、こう以前の儚さってのが、無くなったな。華っぽい。逞しさが前面に出てるな。」  「別に男だから、いいんじゃない?儚さいる?」  「うーん、そうだね、男感増し増しって感じ。」  「なら、別に良いじゃん。男が寄ってこない。」  「あ~、それとこれとは違う。エロさも増してる。」  わけわからん。まぁいいや。  美貌と腕力と本当の不老不死を手に入れたんだ。最強だろ?

ともだちにシェアしよう!