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第78話

   もう、凛が眠りについて7年目。  すっかり細くなって軽くなった。毎日の鼻チューブからの流動食で命を繋いでる。  介護は負担じゃない。  ただ、凛の声が聞けない。目の前にいるのに。話しかけても、勿論、反応は無い。  毎日、決まった時間に食事や、風呂に入れてやる。他の時間は少し仕事して、凛の側に居る。凛の髪をブラシで解くのが、1番安らぐ。  「凛、綺麗だよ。目が覚めたら、リハビリしなきゃね。すっかり痩せちゃったぞ。」  気がつくと涙が溢れてしまう。  死んではいない。だけどまた取り残された気分だ。  週に2回程、裕太が足繁く見舞いに来る。その度に、流動食に出来そうなスィーツを土産に買ってくる。  「悪いな。もう、長いのに。」  「蓮さんが、諦めたら凛は、駄目になっちゃうよ。出来るだけ応援するから、頑張ろ?」  「あぁ、そうだな。ありがとね。」  でも裕太。俺、そろそろ限界かも知れない。毎日、凛との想い出が夢に出るんだ。だから、よく眠れてないみたいでね。たまに凛の食事すら忘れちゃうんだよ。駄目なパートナーだよな。  1人、ベランダで一服。凛の魂は何処にあるんだろうか。それが分かれば、直ぐに行くのに。  「凛、ずっと家ん中ばっかだから、ドライブ行こうか。」  草原を凛が好きな音楽をかけて、ドライブ。  これが、最期だ。  「凛、想い出作ろうな。」  ドライブが終われば、もう俺、食事を取るのを止めようと思う。凛のもだ。  いずれ、動けなくなって仮死状態になるだろう。その後は分からない。  でも、もう疲れちゃった。ごめんな、こんな相手で。本当は、ずっと看てやらなきゃいけないんだけど、根性無かったよ。  裕太にメール。  『暫く、凛と海外のリゾートに行くから、来ても居ないからね。』  裕太以外、人は来ないからこれでいい。  「凛、最高の景色だよ。凛に始めて連れて来て貰った展望台だ。」  車椅子で眠る凛に優しく話す。  「帰ろうか。そんでゆっくり寝よう。もう何もしなくて良いんだ。」  ドライブから、数週間。  ディウォーカーの生命力に驚かされる。飲まず食わずなのに体調が変わらない。  「なんだよなぁ、凛の側に行きたいのに。弱んないから近づけやしないな。」  それでも、2ヶ月程すると、もう身体の中には何もないから、風呂に入る以外は横になってないと辛くなって来た。  「凛、あと少しだから。腹へったよな?ごめんな。これじゃ無理心中だよな。」  凛もさらに痩せてしまった。流石に居た堪れなくて、凛には食事を出す事にした。俺だけ弱れば良いんだから。凛の眠りの元凶は俺だからな。  凛に食事を与えたら、俺は凛に添い寝する。大きな窓から、空を眺める。  (ずっと一緒に居たいだけ。それだけなんだ。)  体力も落ちてきた。横になるとすぐに睡魔が襲う。だけど1番幸せな時間だ。夢の中で凛との楽しい想い出に浸れる。誰にも邪魔されずに。  夢の中じゃ、凛は勿論、元気で美しく笑顔だ。沖縄、また行きたかったな。  目が覚めたら現実に引き戻される。大事なパートナーは、俺を庇っていつ、目を覚ますか分からない深い眠りの中にいる。  「凛、今日も綺麗だ。食事、作ってくるね。」  重い身体を引きずってキッチンで、凛の為に流動食を作る。ミキサーを回してる間も、意識がフワフワしてる。  (俺が動けなくなったら、凛も弱るのか。道連れか、悪いな。)  だけど、終わりの無い介護は辛い。人間なら、老衰という終わりがあるが、俺たちには無い。ただ弱るだけ。ミイラのようになっても死ぬ事は出来ないだろう。  「凛、ごめんな。俺ももうすぐ動けなくなりそうだ。そしたら、凛、飯作れなくなるから腹減るよな。ごめんな。」  「裕太、最近、見舞いに行かないが、どうした?」  ロイが尋ねてきた。  「うん、2ヶ月くらい前かなぁ、メールで、海外に出るから、家に来ても留守だって連絡が来た。帰ってきたって、連絡ないから行ってない。」  「そうか。ふむ。おかしいな。」  「何が?」  「蓮と凛の気配は、ずっと家にあるぞ。多分、海外には行ってない。」  「え?嘘メール?何で嘘ついたんだろ。」  「嫌な予感がするな。今から行くぞ。」  インターフォンが鳴る。のっそりと身体を起こして、壁伝いに歩く。  「はい、どちら様?」  〔やはり、居たか。ロイだ。開けてくれ。〕  「やつれたな、蓮。食事、取ってないんだろう。」  「・・・・あぁ、もう疲れてね。食べる事より凛の側に居たいんだ。」  「でも、蓮さんが倒れたら、凛も弱っちゃうよ。」  「あぁ、そうなんだよ。今はそれが悩みかな。」  「施設に預けたらどうだ?少し蓮も休め。」  「嫌だ。凛は何処にも預けない。側から離さない。引き離しに来たのか?だったら、帰ってくれ。」  「2人が心配なんですよ。こんなに弱ってたら、凛の面倒見れないでしょ?」  「有難いが、もうほっといてくれ。凛は誰にも渡さない。」  2人を追い返すように送り出し、凛の元へ。  「凛、ずっと一緒って約束したもんな。大丈夫。誰にも渡さないからな。」  食事の時間だ。ふらつきながら、キッチンへ。  「あぁ、買い出しいかなきゃな。目の前なんだがな。宅配にするか。」  もう、外出もままならない。  睡眠時間が長くなって来た。起きて凛の世話をしなきゃいけないんだけど、もう限界かも知れない。  「凛、ごめんな。飯、作れないや。やっぱ施設、行った方が凛の為なのかな。」  泣きながら、凛に抱きつく。すっかり小さくなってしまった。  ふと、手に凛のネックレスが触れた。  (蓮っ、蓮!気がついて!俺、ここに居る!)  「凛?凛!凛、意識あるのか?凛!」  ネックレスを握りしめる。  (蓮、蓮。意識あるよ。もうずっと前から。)  気づいてやれなくて済まない。  「ごめん、ごめんな、気がつかなくて。辛かったな。」  (大丈夫、蓮、ご飯食べて?元気になって?悪い事考えちゃ駄目。ずっと俺も蓮に語りかけて、通じたんだ。独りぼっちじゃないよ、蓮。)  大人だけど、声を上げて泣いた。凛は全部分かってたんだ。俺が死を選ぼうとしていた事、凛を道連れにしようとした事。  (俺の世話、辛いなら施設に入れて?俺は平気。蓮が時々お見舞いに来てくれたら嬉しい。)  凛の閉じた瞳から涙が流れた。  「嘘だね。施設なんか行きたくない癖に。俺がちゃんと看る。飯も食うし、凛の世話は俺がやる。」  愛しい相手が戻ってきた。まだ、見た目は変わらないが、意識はしっかりあって、交流出来る。  「凛、今からチューブ入れるよ、辛いけど我慢してね。」  まだ、口から食べれないからチューブで栄養を摂る。  食事を終え、風呂に入れたりしてるうちに俺も回復して、凛も少し重くなった。だって、味分からない筈なのに、デザート出せって伝えてくる。  「動けないのに甘いの食ったら、デブるぞ。」  (ちょっとくらい構わない。生クリーム舐めたい。)  口を開いて舌の上に、生クリームを少し乗せる。  (美味しい。もっと欲しい!)  「ダメー。身体が動かせるようになってからだ。」  心配してくれてる華達やロイ、裕太にも、凛の意識が戻った事を知らせた。  「姫、顔色、良くなったし太ったわね。甘いもの控えないとデブよ、デブ。」  「ほらな、同じ事言われただろ?身体動けるようになったら、解禁してやる。」  (えー、食べたいよ~。)  「何よ、身体動かないだけで、中身全然落ち込んでないじゃない。また、来るわ。姫の世話たまには交替しましょ。蓮だけじゃ大変よ。」  「あぁ、そうだな。外出したりする時、頼もうかな。」  「いつでも。じゃ、帰るわね。」  「おっひさー、凛。おっ、顔色いいね。今日は、あの店のケーキ買ってきたよ!」  「あ、スィーツ禁止。ここんとこ、急に太ったから、禁止してる。」  「クリーム舐める位、大した量じゃないよ。スプーン貸してくださーい。」  ま、スィーツ仲間だからな。大目にみるか。  凛は裕太と何が交わしてる。楽しそうだから、その間に家事。  「なんだ、えらく楽しそうだな。」  「うん、凛、良い事思い出したってさ。フフッ、教えてもらったけど、蓮さんは自分で聞いてね~、じゃ、帰りまーす。またね~!」  なんだ?何を思い出したんだ?  「凛、何思い出したの?裕太がスゲ~ニヤニヤしてたんだけど。」  (蓮が列車事故で回復したキッカケ。あれで俺も回復できるかも。)  「ん?何したっけ?あれ、俺、忘れてる。なんだ?」  (蓮が大好きな事だよ。)  瞼は開かないが、眼が動いてる  「何だよ、教えろよ~。」  (蓮の精液摂取。)  あ、思い出した。入院中に、凛のモノ咥えて、飲んだな。  「でも、今は無理だろ?口から飲めない。」  (下、下からだったら、吸収できる。)  は?はい?えーと、えーと。  「エッチするって事か!」  (そう、そう。出来る?)  うーん、いくら意識が戻っても身体は眠ってる状態。そんな相手にSEX?出来るか自信無いっす。  (1人エッチしてないなら、出来るよ。溜まってるでしょ。)  いや、そういう問題じゃない気がする。  (取り敢えず、チャレンジしてよ。出来なかったら諦めるよ。)  「うん、わかった。やってみよ。」  いつもは、介護って意識で見てる凛の身体を今日は性的な目線でみる。  少し回復して、フックラした身体。触れてみると柔らかくて滑らかな触り心地だ。可愛らしい胸の突起も、復活してる。肌が白いから、唇と胸の突起はピンク色で目を惹く。  凛の閉じた唇にキスをする。弾力もあって、柔らかい。口を開き数年ぶりに凛の味を感じ取る。反応は、無いけど顔が紅を差したかのように紅潮してきた。顔から手を滑らせ、今から後ろを触る事が分かるように触れる。  濡らした指で、秘孔を解す。身体に力が入らないから、直ぐに柔らかくなった。  「凛、今から挿れるよ。痛かったら伝えて?」  (うん、わかった。大丈夫。)  ゆっくりと挿入する。数年ぶりの交わり。やっぱ好きなんだよな。凛の裸見た時点でガン勃ちしたもん。だけど、今日のはSEXが目的じゃない。俺の体液を凛が吸収する事。俺も助けられたんだ。出来る事はしないとな。  身体にも負担が掛かるから、激しく動かない。兎に角、中出しが、目的。  ゆっくり動いて早くイクように自分のモノに集中する。  凛の眉が微かに動く。  「痛いか?辛くない?」  (ち、違う。気持ちいいの。)  だからって、激しくはしないからな。俺も相当、溜まってたらしく、大して動いてないのに、イキそうだ。  「凛っ、出そうっ!出すよっ!」  ブルッと震えて、凛の腹の中に体液を流し込む。  ゆっくり引き抜いて、凛に優しくキス。  「これで、回復しなくてもちゃんと看てやるからね。焦るなよ。」  凛の顔に表情が浮かぶ。  そして、美しい瞳がゆっくり開いた。  最初は焦点が合わないみたいに視線が彷徨ったけど、俺と目が合うと笑みを浮かべた。  声はまだ出ない。凛のネックレスを握りしめて、嗚咽する。  (泣かないで、蓮。大丈夫だから。ゆっくり回復するから。)  「嬉しいんだよ、凛。嬉しいんだ。」  それから、数日置きに行為を重ねた。ゆっくりと回復していく。  まだ喋れないものの、自分の力で座って、口から食事を取れるまでになった。  「そりゃそうか。身体が半分に裂けたんだもんな。血液も取れないから、回復もゆっくりで当たり前か。」  今更、納得する。  (スィーツ解禁して~!)  食事の度に結構、言い合うようになった。もう、ネックレスに触れなくても身体に触れたら意思が伝わる。  「駄目なもんは、駄目~。マジでフックラしてきてんぞ。裕太も土産にスィーツ持ってこないだろう?」  側から見たらおかしな風景だよな。手繋いで喧嘩してんだからな。1人は喋って、1人はむくれてる。表情で感情を表すから。 風呂に入っても時間を無駄にしない。ちぎれて再生した右腕を動かしたり、足を揺らしたり。自力でもリハビリを始めた。  少しヒンヤリした朝だった。  「蓮、おはよ。」  掠れてはいたけれど、凛の声が耳に届いた。  「凛、おはよ。今日は天気がいい。ドライブに行かないか?ソフトクリーム食べて良いから。」

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