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第107話
独りって、楽だよね。
まぁ、楽っていう結論になるまで、辛い時もあるけどね。
歳をとらない。何故か分かんないけど。
恋人を作っても、長く付き合う勇気が無い。
祐貴って言う優男で、今までで1番好きだった相手と別れて数年、凹んだもん。
今も思い出すのは辛い。
裕貴の腕の中で眠れる幸せな時間はもう戻らない。
気が付いたら裕貴も三十路手前だった。迂闊にも、裕貴の近くに長居してしまった。いつもなら数ヶ月から、数年なのに10年一緒に居た。
滅多に泣かない俺だけど、最後の寝顔には泣きながらキスをしたよ。
それが最後。
結局、裕貴の親の仇も果たせなかったし、ただ、一緒に居ただけだった。
ただ一緒に居る。それも、簡単なことじゃ無いんだね。共に生きて一緒に居るのは奇跡だよ。いい?貴女の隣に大事な人が、居るならば、それは奇跡。大切にしてね。
裕貴の街に居たマスターのツテで、新しい街に来た。
まぁ、仕事は変わらない、何でも屋。
今は独り身だから、たまには売りも、ね。楽だし、金づるにもなる。
「おい、ピンク頭、何してんだ?」
ん?馴れ馴れしく声を・・・
振り向いたら、パツキンの兄ちゃん。俺と同じ人外だ。
「おっ、久しぶりじゃ~ん。今、客待ちだよ。俺。なかなかの売れっ子だからねぇ。あ、もしかして買ってくれんの?」
「馬鹿か。買わない。あのデカい男とは別れたのか?」
思い出させるな、バカ。
「仕方ないだろ~。俺、歳とらないし。アイツもいい歳なんだし、結婚とかね~。」
「うちにも来たんだぞ。行方不明だって、青い顔して。」
「・・・仕方ないじゃん。離れる以外にどうしろって言うんだよ。」
ポロポロ、涙が溢れた。
「まだ好きなんじゃないか。戻れば良い。」
「アイツの人生、狂わしたくないもん。俺みたいなバケモンの所為で。」
「ん、わかるけどな。まぁあのデカい男が、人間だったら、の話だろ?」
はい?人間だよ。
「誰かの遺伝子いじくり倒して、自分に摂取してたらしいぞ。とりあえず、俺が知ってるのは、ここまで。」
「・・人体実験・・」
「さぁ?じゃ、俺は仕事終わりで一杯呑んで帰るから。お前も身体売る以外の仕事やれよ。」
「あんがと。パツキン兄ちゃん。」
「蓮だ。名前を呼べ。」
裕貴が、自分の身体で実験。
なんで?そんな危険な事を。
数年ぶりに、裕貴の住む街に帰ってきた。
ピンポーン。
居ないかな?仕事かな。帰ろうとしたら
「桃也!桃也なの?」
ピンク頭は早々居ないだろ?
泣き顔で、抱き着いてきた。何故か違和感。
裕貴、歳取ってない。二十代前半くらいの外見だ。
「人体実験したの?」
「うん、桃也と一緒に居る為に!」
「若返ってる。」
「うん、そうだよ、成功したんだ!」
なんて事したんだ。裕貴。
「ずっと一緒に生きていけるんだ。」
「バカ。バカ。何やってるんだよ!バケモンになってどうすんだよ!」
「毒を食らわば皿までってね。必死に研究所の影で、遺伝子取り出したんだ。何度も失敗したけど、多分定期的に摂取したら桃也と一緒にいれる。」
「何してんの?お馬鹿!」
変な事に巻き込んだ後悔とまた一緒に生きていける嬉しさと、ごちゃ混ぜで、大の男がワンワン泣いてしまった。
ひとしきり泣いたら、何かスッキリした。
「じゃ、また一緒に暮らせる?」
裕貴が聞いてきた。
「しょうがないだろ?それに新鮮な遺伝子も要るだろ?」
「あぁ、そうなんだ。最後で成功したのは、桃也の保存してあった最後の血液からだったからね。」
ニコニコしながら、抱きしめてくる。
もう少し
もう少し一緒に暮らせるのかな。裕貴の身体が遺伝子変化に耐えられなくなったら、最後までみよう。俺の責任だから。
「そういえば、テレビで裕貴の親御さん殺した犯人特定されたって。俺暫く、ソイツ追っかけたい。警察より先に始末したい。」
「うん、依頼するよ。警察なんか、あてにならない。」
「依頼なんかしないで良い。俺がやりたいんだ。」
それも有難いけどねって、抱き上げられた。
ん?
寝室へ。
あ~、したいんだ。そうだよな。俺は、売り専やってたから溜まってないけど、裕貴は、1人エッチしないタイプ。
ん~、身体持つかな?まとめてこられてもなぁ。
「不安気だね?大丈夫。まとめてエッチしないから。今日は再開のお祝い。一緒に寝てくれたら良い。桃也が居なくなってマトモに寝てないんだ。」
ベッドのサイドボードの上は、薬だらけ。
「眠れないの?」
「うん、眠れなかった。朝目覚めたら、桃也が居なかったんだよ?書置き残して。悪夢だよ。でも、もう終わり。今日から、また眠れる。薬なんて要らない。」
「俺も眠れなかったよ。だから、沢山の人間と寝た。汚れだけど良いの?」
「大丈夫、桃也は桃也だ。何人と付き合おうが、SEXしようが、桃也は変わらない。」
もう、お喋りは、やめた。
裕貴の腕の中で、目を閉じたら、吸い込まれるように、睡魔に引き込まれた。
久しぶりに、マスターに顔出し。
「おかえり。そろそろ帰ってくるかなと思ったよ。俺の1人勝ちだな。」
店のメニュー表に見える黒板には、色んな賭けが、書いてある。
「なんだよ~、俺を賭けの対象にすんなよ。」
「何でも屋再開?」
「あぁ、そうだね。身体と魂以外、なんでも売るよ。また、頼むね。」
「じゃ、これ。」
裕貴からの依頼だった。
もー、しなくていいって、言ったのに。
「コイツは、連続殺人犯だ。気を付けろ。」
「リョーカイ♪」
さて、また古巣のこの街で暴れますか。
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