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第5話
部活を終えて校門へ向かう。
高校には空手部があるので俺は迷わず空手部を選んだ。翠は中学から続けてバドミントンに入っていた。
校門に人だかりがある。予想通り翠とその周りに群がる男子だった。
近づいていく俺を見つけた翠はほっとした顔をして「龍ちゃん!」と駆け寄ってきた。
一斉に男たちの視線がこっちを向く。俺は男たちの制服の襟についている学年章で上級生がかなり含まれているのを確認し、「失礼します」と会釈をして校門を出た。
「これで俺は明日には校内の時の人になるな」
ふっと笑うと翠がすまなさそうに言った。
「ごめんね、利用するようなことしちゃって」
「いいよ。確かに毎日さっきみたいなことになってたら翠も疲れるよな。ところで、俺たちは付き合っていることにした方がいいのか?今日、早速聞かれて返答に困った。取り敢えず幼馴染とだけ言っておいた。」
「そんなこと言ったら龍ちゃん彼女できなくなっちゃうよね」
「俺?俺は当分彼女なんていらないから気にするな。それより翠が彼氏ができなくなるぞ?」
「私は・・・いいの。じゃあ、学校では彼氏のフリしてもらってもいい?」
翠の逡巡するような溜めが気になったが
「了解」
と返事をした。
「でも、じきに翠のメッキが剥がれたら追っかけてくる男も減るだろうけどな。空手の猛者 で、男勝りの性格だってさ」
「メッキとは何よ。私だって女の子の部分はあるんだから!」
唇を尖らせる翠に笑った。
地元の最寄りの駅からは花村家よりうちの道場の方が手前にある。
道場の前まで来ると、中から
「龍ちゃん!おかえり!」
と道着を着たままの蒼が飛び出してきた。おお、あおたんは汗をかいていてもやっぱりキラキラしてる。
「あ、姉ちゃんも、おかえり!」
「おう、蒼。稽古はもう終わりか?」
「うん!」
「翠、どうする?このまま家まで送るか?少し待って蒼と帰るか?」
「この辺は大丈夫よ。どうせ3分もかからないんだし。このまま一人で帰るから」
「じゃあ、気をつけてな」
「あ・・・龍ちゃん。よかったら朝も駅から一緒に行ってもらってもいい?学校の最寄り駅からでいいから。今朝も、ちょっとごたごたあって」
「ああ、そうだな。どうせ同じ駅から乗るんだ。こっちの駅で待ち合わせにしよう。7時40分に改札で」
「うん、龍ちゃん、ありがと。じゃあ、明日ね」
翠はヒラヒラと手をふり帰っていった。
俺と翠の会話を大きな青い目をきょろきょろさせて聞いていたあおたんは
「ねえ、今日も龍ちゃんの部屋行ってもいい?」
と俺の顔を見上げて聞いてきた。
「もちろん。着替えたらおいで」
そういってその茶色いふわふわした頭にポンと手を置いた。これが俺が天使に触れられる精一杯。もし、あおたんが俺の部屋で着替えたりなんかしたら、そりゃもう大変なことになるから、ちゃんと着替えてから来てくれよ。
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