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第8話
そして体育祭当日。
開会式が終わった直後からちょっとした騒ぎが起きていた。
「なんか、アイドルがお忍びで見に来てるって噂だよ!」
「さっき、ちらっと見たけどすっごいキラキラオーラが出てたー!」
これはもしやと思っていると
「龍ちゃーん!」
あおたんがぴゅーっと俺に向かって走ってくる。そして少し手前でぐっと膝を曲げたかと思うと俺にびょんと飛び乗った。
「見に来たよ!」
満面の笑みであおたんが俺の顔を覗き込む。ぎゃあ、近い近い。
周りがいっせいにざわつく。
「きゃあかわいい。誰あれ!」
「なんで八神君?」
「なんかコアラが木にしがみついてるみたいだな」
あおたんはお構いなしだ。
「姉ちゃんはどこ?」
「翠は白組だからちょっと離れてるな。向こうの方だ」
「えー、どこ?龍ちゃん、肩車してよ」
天使のお願いには逆らえない。まあ万人の前では天使の羽は隠しておいた方が賢明だしな。
俺はあおたんを肩車してやった。
デカい俺に肩車されてにょっきり飛び出したあおたんは、更に注目を集めた。
花村さんの弟だってとか、確かあのふたり幼馴染っていってたもんなとか、弟も美形だとかさざめきが外に向かって伝わっていく。
「あ、見っけ!」
と、あおたんが言うのと同時に、翠の方でもこちらに気づいたようで、大きく手を振っている。
「ちょっと行ってくる。龍ちゃん、頑張ってね。龍ちゃんが出るやつ全部勝ってね」
「おう、任せとけ」
それを聞くと、あおたんは俺の両肩に手をかけ、あん馬のように器用に両足を抜いたかと思うと腕の力で反動をつけ宙返りをして降り立った。
周りから一斉におおーっという声が上がる。
派手なパフォーマンスをした上に、俺に向かってウィンクをして翠の方に走っていくあおたん。
もう、俺を殺そうとしているとしか思えない。しかし、死ぬのは体育祭が終わってからだ。全部勝つと約束してしまったから。
俺はリレーも騎馬戦も棒倒しも応援団の大旗振りの役も120%の力を出した。翠も持てる運動神経をいかんなく発揮したようだ。
そして1年の部のMVPを俺と翠が取ったあたりから流れが変わった。
やっかみが多かった男子の視線が、一目を置くものに変わり、お似合いのカップルのような公認のされ方になり、一気にやりやすくなった。
あおたんが俺に懐いている様子を見せつけたのも大きかった。
幼馴染として過ごしてきた長い年月を見せつけられた気がしたのだろう。
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